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「自然治癒力を高める」というフレーズ

2005.04.12(火)

最近気になるフレーズのひとつが「自然治癒力を高める」である。これは様々な健康食品やサプリメント類、民間療法などの効果をアピールする際のキャッチコピーとして、非常に一般的に使用されている。デパートの健康食品売り場に行っても、ドラッグストアのサプリメント売り場に行っても、「自然治癒力を高める」もので溢れ返っている。自然治癒力が高まると、なんだか病気にならないような気がするし、怪我をしてもすぐに治るような気がして、とても有難いことのように感じてしまうのが人情かもしれない。

 

本来、医薬品ではないものについて、効能・効果をうたってはいけない(薬事法違反になるので)のだが、「自然治癒力を高める」とか、「免疫力を高める」ということは、それ自体が非常に定義が曖昧で、どのような意味にも捕らえることが可能で、しかも実は「何も意味していない」という可能性もあるため、非常に便利に使われているのだろう。

 

しかし、特に最近色々な「傷の治療」をしている中で感じるのだが、「自然治癒力」は本当に「高める」ことができるのだろうか?傷の治療に関してときどき受ける質問の中に、「傷の治癒を早める薬などはありませんか?」というのがある。確かに「傷の治癒を早める効果がある」として売り出されてる(動物用)医薬品、医療材などがない訳ではない。しかしこれらの殆どに対して、私自身は懐疑的である。

 

創傷治療」のところでも紹介されているが、私が現在行っている傷に対する治療;消毒をせず、乾燥を防いで、ドレッシング材などを利用しながらの治療では、今までの治療よりも非常に早く傷が治ることが多い。しかし私自身は、「傷の治癒を早めている」とは考えていない。これは、傷の治癒を邪魔している様々な「阻害因子」を取り除くことで、本来生体が持っている治癒のスピードに『戻している』だけだと考えている。つまり、「マイナス」のスピードから「ゼロ」に近づけているだけなのである。従って、組織が持っている本来の治癒のスピードである「ゼロ」のレベルにまで達してしまったら、それ以上スピードを「プラス」の方向に上げることは多分できないと思うのである。もしも組織の細胞が本来持っている能力よりも『早く』増殖、分裂するならば、それはまるで「癌」のような状態ではないだろうか??

 

だから、「傷の治癒を早める」と謳っている医療材・薬剤の多くは、それに含まれている基材のお陰で傷の乾燥を防いでいたり、消毒する機会が減ったり、ガーゼが傷にくっ付かなくなったりするなど、意図しない副次的な効果により「たまたま」傷が早く治っただけなのではないだろうか?と考えるのである。しかもこれらの効果を実証するために比較されている治療法は、「消毒してガーゼを当てる」方法なのであるから、どんな方法でもこれより早く治るのは当然のことである。多分、中に含まれている薬剤の効果などは、殆ど関係がない。

 

そもそも傷が治らないのは「原因を除去」しないからであって、全ての傷は自ら治癒する能力を持っている。だから我々ができることは、「原因となっている因子」を除去しつつ、治癒の邪魔をしないこと(本来の治癒しやすい環境を整えること)であって、「特効薬」を塗ることではない。だいたい原因も何も関係なく「付けただけで何でも治る特効薬」など存在しないのである。

 

 

そういう訳で、「傷」に限らず生体にとって「正常な状態」以上に「治癒力を高める」などということは、本来ありえないはず、と考えるのである。病気で体力が落ちている場合や、栄養不良などで免疫が低下している場合には、病原体を除去したり、栄養状態を改善させることで「自然治癒力(免疫力)」を正常に近い状態にまで引き上げることはできるだろう。『マイナス』から『ゼロ』に引き上げることは可能なのだ。つまり、それが「医療行為」とも言えるのだろう。しかし『ゼロ』の状態からさらに『プラス』に引き上げることは恐らく出来ないのである。健康な状態はそれを維持するのが正常な「恒常性」なのであって、それよりもさらにどんどん「健康になる」ことは出来ないのである。「正常値」は、それより低くても、高くても「異常」だ、というのと同じことかもしれない。

 

「普通」が一番「健康的」なのである・・・・。