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傷を乾かしてはいけない

2017.10.31(火)

  傷が出来たらまず消毒して、乾かして、ガーゼをあてて治療するというのが今までの常識でした。しかし、これは医学的には間違いなのです。傷は乾かしてはいけません。

 傷が出来ると、主に線維芽細胞などからなる「肉芽組織」が増殖して、創面を覆います。その上を表皮細胞が滑るように移動して傷を塞ぐとういのが、大雑把な「創傷治癒」の過程です。下の図は、1960年代に初めて「モイスト・ウンド・ヒーリング(湿潤環境下での創傷治癒)」という考え方を示したWinterという人が作った、傷の治り方の模式図です。左側は「閉鎖性ドレッシングによる湿潤環境下」での治癒、右側は従来の「乾燥させた」場合の治癒過程です。左右に伸びる「赤い点々」が表皮細胞を表しています。湿潤環境下では、表皮細胞は肉芽組織の上を滑るように、速やかに移動しているのに対して、右の「乾燥環境下」では、表皮細胞は乾燥した痂皮(カサブタ)や壊死組織の下を、潜りながらゆっくりと移動しなければならないことがよく解ります。例えば「タコ」のような水生の軟体動物が、乾燥した砂漠を移動することを想像してみてください。

  傷を乾燥させると、表皮の移動が妨げられるだけではなく、創傷治癒に必要なあらゆる細胞が乾燥して壊死してしまいます。また傷から沁み出してくる「浸出液」も乾燥して「痂皮(かさぶた)」を形成し、傷の治癒を邪魔します。

 また、傷の表面には、白血球やマクロファージといった「免疫細胞」が遊走して来て、傷を細菌感染から守っています。傷が乾いてしまうと、これらの「免疫細胞」は乾燥した場所へは移動できないため「感染防御」の仕事が出来なくなるのと同時に、これらの細胞自身も乾燥のために死滅してしまいます。つまり、傷は乾燥すると「感染」を起こしやすくなるのです。

 従って、「傷を早く治す」と言う意味でも、「感染を防ぐ」と言う意味でも、傷は乾燥させてはいけないのです。また「傷を乾かさない」治療のメリットとしては、「痛くない」ということが挙げられます。傷が乾いてカサブタた出来ると、傷が「ずきずき」と痛むことがありますが、湿潤環境下での「創傷治療」では、痛みを殆ど感じることはありません。