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FAQ: よくある質問

2017.11.01(水)

新鮮外傷を、ドレッシング材を使用して湿潤環境で治療する「湿潤療法」は始まったばかりで、まだまだ一般 的には広まってはおらず、その方法も決まったものはありません。どのようなドレッシング材を使用したらよいのか、交換の頻度はどれくらいか、外科的処置が必要かどうか、一症例ごとに考え、臨機応変に対応して行く柔軟さが大切です。 湿潤療法をしていると、特に慣れないうちは、本当にこれでよいのだろうか?化膿しているんじゃないだろうか?などなど様々な疑問が浮かんできます。このような疑問を集め、出来るだけ解り易く回答してみました。

 

Q-1 ジュクジュクして「膿」の様にみえるのですが?

傷からは「滲出液」という体液が分泌されます。「滲出液」の中には組織の修復に重要な役割を果 たす様々な細胞成長因子やサイトカイン、マクロファージや好中球などの免疫細胞が含まれており、傷が治るのを助けています。これは「膿」とは全く異なるもので、傷の治癒には必要不可欠なものなのです。ハイドロコロイド材アルギン酸などの場合は、ドレッシング材の成分がゲル状に溶けて滲出液と交じり合い、「ドロッ」とした「膿」の様に見えることがあります。これらの「滲出液」はちょっと汗臭いような独特の臭気がしますが、「膿」のような腐敗臭がすることはありません。「滲出液」と「膿」とを間違えて、慌てて消毒したり抗生物質の無駄 使いをしないように注意してください。

 

Q-2 湿潤療法では二次感染は起きないのですか?

「感染」とは、組織1立方センチメートル中に細菌が10万個以上存在する状態、あるいは「壊死組織」や「血餅」「カサブタ」や「縫合糸」などの異物の存在により細菌が増殖した状態で、「発赤」「腫脹」「疼痛」「熱感」を伴うものを指します。これらの「異物」をきちんと取り除いた状態で湿潤環境を維持すれば、消毒剤の使用や乾燥により組織を痛めない限り「感染」が起こることは先ずありません。ただし、他の患者の「感染創」を処置したそのままの手で、他の患者の傷に触れると「感染」を起こす可能性がありますので、ディスポーザブルの手袋を使用して、患者ごとに交換するなどの注意が必要です。

 

Q-3 被覆材は何日くらい貼りっぱなしにしておいて良いのですか?

傷の状態、被覆材の種類などにより異なります。ハイドロサイトなどのポリウレタンフォーム・ドレッシング材では、滲出液が被覆材の全面 に染み出してきて変色してきたら交換時期であると言われています。滲出液が少ない場合は、多くの被覆材では最大1週間放置してよい、とされています。しかし、閉鎖療法に慣れないうちは、頻繁に交換して傷の治癒具合をチェックするのが良いと思われます。動物の場合は、ずれたり汚れたり、などの理由により、多くの場合中2日から3日程度で交換しています。

 

Q-4 手術後の傷は毎日「消毒」しなくていいのですか?

とにかく「傷」を消毒する、と言う行為自体が無意味(あるいは有害)ですから、必要ありません。手術創のような1次縫合の傷は、縫合後24時間から48時間で上皮化しますから、それ以後は、原則的には何の処置も必要ありません。ただし、動物の場合は自分で舐めたり齧ったりして縫合糸を外してしまったり、舐め壊してしまったりすることがありますから、「傷を保護する」と言う意味でガーゼなどを当てておくのが良いでしょう。私の場合には、術後1日から2日はフィルムドレッシングで被覆し、その後はガーゼを当てて包帯や腹帯を巻いておくか、エリザベスカラーをして傷には何も巻かないかのどちらかの方法を取っています。

当院での「術後縫合創の管理」はこちらを参考にして下さい。

 

Q-5 汚染した傷を「抗生物質を溶かした生理食塩水」で洗っていますが、効果 はあるのですか?

所謂「抗生生食」というものですが、抗生物質がその効果を発揮できるのは全身投与(内服あるいは注射)のときのみです。局所の使用では、抗生物質の有効濃度までその濃度が上昇しないので、ほとんど効果 はありません(これは軟膏剤でも同様です)。むしろ効果はないが、耐性菌だけは出来てしまうという最悪の結果 になります。効果があるとすれば、生食による「洗浄効果」ですが、これが何よりも重要です。洗浄に使用するのは何も「滅菌」された生理食塩水である必要はありません。水道水で充分です。

 

Q-6 キチン・キトサンを使う方法より閉鎖療法の方がよいのですか?

私がここで説明したいのは、「正しい創傷治療」の考え方です。傷を合理的に正しく、そして早く、かつ痛くない方法で治癒させる為には、創傷面 の湿潤環境を保つことが重要で、その為には創面を閉鎖するのが理に適っており、それには現在手に入れることの出来る「創傷被覆材」を利用するのが今のところ最も便利である、ということなのです。キチン・キトサンや各種の軟膏剤、ジェルなども、創傷面 に被せて使用するものは全て「ドレッシング材」に含まれます。キチン・キトサン製剤であれ、ティートリーオイルであれ、「がまの油」であれ、どのような物を使用したとしても、傷を乾燥させたりして治癒を妨げるような方法で使用すれば、傷は治りません(治ったとしても非常に時間がかかります)。つまり、例えどんなに高価な薬剤やドレッシング材を使ったとしても、「湿潤環境での創傷治癒」;モイストウンドヒーリングを基準として考えなければ、ほとんど意味がない行為になってしまうのです。

ちなみに、私は創傷に対して「キチン・キトサン」製剤は一切使用しません。このような物質は創傷に対して炎症などの刺激を引き起こすと考えられるため、傷の治癒が遅れます。また一時期流行した「ティートリーオイル」なども、アレルギーなどの副作用や細胞障害性などの報告があるため、使用しておりません。「基本を無視しても治る特効薬」は存在しないということです

 

Q-7 「滲出液」を採材して細菌培養検査に出したら「耐性菌」が検出されたのですが、抗生物質を投与しなくて良いのですか?

皮膚には常在菌がいます。皮膚が破けて傷が出来ると、常在菌は創傷面に移動しますが、これは「感染」とは言いません。このような状態で、抗生物質を使用すると、その抗生物質に感受性のある細菌は死滅してしまいますから、たまたま耐性を持っていた細菌だけが残り、繁殖することになります。ここで細菌培養検査をすれば、「耐性菌」が検出されるのは当然の結果 です。それがたとえMRSAであったとしても、抗生物質を投与する必要は全くありません。そもそも、「感染創」でない傷に対して「細菌培養検査」をする必要性がありません。

 

Q-8 傷に使用するガーゼなどは「滅菌」のものでなくてはならないのですか?

何度も繰り返しますが、皮膚には常在菌がいます。どんなに消毒しても、皮膚全体を「滅菌状態」にすることは不可能であり、殆どの場合、消毒した10分後には元の細菌叢に戻ってしまいます。「無菌」でないものを覆うのに「滅菌」のガーゼを使用する必要性は全くありません。明らかに汚れている場合や、特定の病原菌(それこそ炭疽菌とかパスツレラ菌とか・・・)が付着しているようなことが無ければ、感染を起こすことはまず考えられません。もっとも「ガーゼ」には傷を「湿潤環境」に保つ能力はありませんから、ガーゼを傷に直接あてるのは(縫合創などを物理的に保護する目的などの他は)止しましょう。