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熱射病について

2017.11.02(木)

▽「熱射病」その予防と応急処置

夏場に頻繁に発生する救急疾患のひとつに、「熱射病」があります。熱射病は、日中の炎天下に長時間散歩や運動をさせたり、高温の閉め切った室内で留守番をさせたり、あるいは車の中に置き去りにしたり、と言った場合に多く発生が見られます。特に夏休みなどの行楽シーズンには、旅行先でこのような事態に遭遇する可能性もありますので、いざと言うときに慌てず適切な応急処置ができるように、ある程度の知識を持っておくことはとても大切なことです。
万が一、熱射病になってしまった場合でも、早い段階で適切に処置をすることで、重症になるのを防ぐことができます。しかし高体温の状態のまま長時間経過してしまった場合には、重症となり命を落とすことも稀ではありません。
大抵のケースでは、熱射病はその発生を予防することが可能なことが多く、従って熱射病は「なってから治療する」よりも「ならないように予防する」ことが重要である、と言うことが出来ます。

 

▽「熱射病」の症状

「熱射病」はその名の通り、体温が異常に上昇してしまうことで引き起こされる病気です。正常な犬や猫の体温はおよそ38.5度くらいですが、熱射病になると40~43度くらいにまで上昇します。熱射病の動物は呼吸が速くなり、口を開けて舌をダラッと出した状態で呼吸する「開口呼吸」という状態が見られます。また涎が大量に出ることもあります。中程度の熱射病では、動物はぐったりして、立ち上がったり歩いたり出来ないようになります。そしてこのような状態が長引くと、脱水が進行してショック状態となり、痙攣や発作などの神経症状を起して、場合によっては命を落としてしまうこともあります。
「日射病」というのは、熱射病のひとつですが、特に直射日光に曝された場合に起こるものを指します。日射病では、全身の体温の上昇と共に、直射日光により頭部の表面温度が異常に上昇することで、脳の浮腫(水ぶくれの様に腫れてしまうこと)が引き起こされるので、痙攣などの神経症状が比較的頻繁に発生します。
病態が進行して「ショック状態」になってしまうと、それまで激しかった呼吸が弱々しくなり、止まってしまうこともあります。庭先や車内などでぐったりしている状態の犬を発見し、その原因として熱射病が強く疑われる場合に、もしも呼吸が弱い、あるいは殆ど停止しているようなときは、非常に危険な状態であると判断されます。このような場合には、以下に説明するような処置を迅速に実施すると共に、直ぐに近くの動物病院で診察してもらう必要があります。

 

▽「熱射病」の応急処置

ここで説明するのは、「熱射病」が強く疑われる場合に行うべき「応急処置」です。応急処置は、あくまで病院に連れて行くまでの緊急的な処置であり、「これを行えば病院に連れていく必要がない」、ということでは決してありません。処置によりある程度状態が落ち着いたとしても、他に異常がないかどうかを調べるため、病院できちんと診察を受けることをお勧めします。
熱射病の動物に対してまず一番最初にすべきことは、体温を下げることです。人間の熱射病では、「体温が正常になるまでに要した時間が長いほど死亡率が増加した」という報告があります。つまり、できる限り早く体温を下げる処置を開始する必要があるということです。まず動物を涼しい場所に移動させます。体温を下げる処置として一番手っ取り早いのは、動物の体にホースで直接水をかける、あるいは全身を水に浸けてしまう事です。このとき注意しなければならないのは、決して氷水やあまりに冷たすぎる水を使用してはいけない、と言うことです。氷水や冷水を使用すると、体の表面の血管が収縮することで、却って体の奥に熱が篭ってしまい、結果として体温の下降を妨げることになるからです。自分の手で触って、ちょっとぬるいくらい(17~20度位)が丁度良いでしょう。
その他、水を体の表面にスプレーする、濡れタオルをかける、などの処置を行うことが出来ます。病院に到着するまでの車内では、このような処置を継続することが重要です。このとき同時に、うちわや冷風ドライヤーで水分を蒸発させながら、蒸発したらまた濡らすことを繰り返すと、蒸散により熱が奪われるので、効率良く体温が下降するのを助けます。
濡れタオルなどで体を冷やすときは、体全体を冷やすことはもちろん重要ですが、特に脇の下や内股、首の周りなどの「太い血管」の走行している場所を重点的に冷やすと効率的です。人間ではよく氷嚢や「ゼリーシート」などで額を冷やすことがありますが、額には太い血管はありませんので、この方法は実際には有効ではありません(但し「気持ちが良い」と言う意味では無駄ではないかもしれません)。

 

あまり熱心に冷やしすぎて、体温が下がり過ぎてしまうことがあります。特に猫や小型犬では、このような事故が起こりやすいので、冷やし過ぎないように注意が必要です。出来れば直腸から体温を計って、39度前後になったら一旦冷却処置を中止するのが安全な方法です。
熱射病による「高体温」は、炎症や感染症による「発熱」とは異なりますので、「解熱剤」は使用しても全く意味がありません。却って消化管潰瘍や腎不全などの副作用が出てしまうこともありますし、そもそも獣医師の指示を受けないでこのような薬剤を使用することは非常に危険ですから、このようなことは絶対にしないで下さい。

 

▽「熱射病」にしないための予防

とにかく「熱射病」を引き起こすような環境に、動物を置かないことが基本です。日陰の無い庭に放して(あるいは繋いで)置かないこと、(絶対に!)車内に置き去りにしないこと、閉め切った室内で留守番させないこと(窓を開けるなどして換気を良くする、あるいは暑くなる時間帯にはクーラーが点くようにタイマー予約をしておくこと)などが大切です。
肥満の犬、ブルドッグやパグ、シーズ-などの「短頭犬種」、高齢の動物、心臓や呼吸器系に疾患を持っている動物は「熱射病」の発生リスクが高いので、特に注意が必要です。また、被毛の密な北方原産の犬種なども、暑さには弱いので、特に夏場は注意深いケアが必要になります。
以上の点に注意すれば、殆どの場合熱射病を防ぐことは可能ですので、普段から気をつけて、熱射病から動物達を守り、暑い夏を乗り切りましょう。