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ノミの被害と予防の必要性

2017.11.02(木)

実はノミの被害は前述したような「刺されることによるノミ皮膚炎」や「ノミアレルギー」、「条虫の媒介」に留まる訳ではありません。先日2005年6月19日)、アメリカのコロラド州立大学の内科学専門医であるDr.Lappinの講義を拝聴し、特に猫の寄生虫疾患を中心に「最新情報」を得る機会があったので、その内容のうち主に「ノミの被害」について、かいつまんでご紹介したいと思います。

 

 

▽ノミは危険な寄生虫!!

ノミに刺されると皮膚炎を引き起こしますし、子犬や子猫などに大量に寄生して吸血した場合には貧血が起きることもあります。しかしそれよりも大きな問題として、血液から感染する様々な病原体を媒介する「ベクター」となる、と言う点が挙げられます。ノミが媒介することが知られている猫の病気としては、以下のようなものがあります。

 

・ネコ引っかき病(バルトネラ;Bartonella henselae)
・マイコプラズマ症(Mycoplasma haemofelis, M. haemominutum)
・ネコリケッチア(発疹チフス)
・猫白血病ウイルス(FeLV)

 

このうち、猫引っかき病(バルトネラ症)とネコリケッチア(発疹チフス)人畜共通感染症つまりヒトにも感染する病気です。ヒトが猫引っかき病に感染すると、リンパ節が腫れて膿が出たり発熱したりと、様々な症状を引き起こします。特にHIV患者の方や臓器移植、アトピーなどで免疫抑制剤を使用している方などの場合には、症状が重篤化する可能性が高いので要注意です。バルトネラは猫だけではなく、犬にも感染していることがあります。発疹チフスも、発疹を伴う発熱や疼痛、重症の場合には神経症状が現れて昏睡状態になることもあると言う、非常に怖い病気です。
マイコプラズマ症は、少し前までは「ヘモバルトネラ症」と呼ばれていた、猫の赤血球に寄生して「猫伝染性貧血」を引き起こす病原体です。FeLVはご存知の通り、白血病症状やリンパ腫などの腫瘍性疾患を引き起こす、猫の伝染病です。マイコプラズマやFeLVはヒトには感染しませんが、猫に感染し発症すると命を落とす場合もある非常に怖い病気です。
バルトネラは、ノミの糞便中で9日間生存することが判っているそうです。猫が毛づくろいをしたりした際に、爪の間などに「ノミの糞」が入り込み、その爪で引っかかれることにより、傷口からバルトネラが入り込んでヒトに感染するのではないか、と考えられています。その他、ノミの糞が直接ヒトの傷口や粘膜などから入ることで感染する可能性もあるようです。またネコリケッチアは主に、口や鼻からノミの糞を吸い込むことで、ヒトに感染すると考えられています。

 

このように、ノミは人畜共通感染症を含む様々な病原体を媒介していることが知られています。猫自身をノミの被害から守るために「ノミの予防」をすることは当然のことですが、特に小さなお子さんがいる家庭や、高齢の方、免疫低下を伴うような病気を持った方などが一緒に生活している場合には特に、ノミやその他の寄生虫の予防・駆除をしっかりすることが、非常に重要です。きちんとノミのコントロールを実施することは、猫だけではなく一緒に生活するヒトの健康を守るためにも、絶対に必要なことなのです。

 

▽その他の人畜共通感染症

バルトネラやリケッチアの他にも、猫からヒトに感染する病気には様々なものがあります。主に猫の糞便が感染源となる人畜共通感染症を以下に挙げます。

 

・鉤虫症
・カンピロバクター症
・クリプトスポリジウム症
・ジアルジア症
・サルモネラ症
・猫回虫症
・トキソプラズマ症

 

これらの感染症の中には、下痢などの症状を引き起こして数日で自然に回復するようなものもあれば、回虫症のように「眼球」に迷入して失明を引き起こすような怖い病気も含まれます。健康なヒトにとってはそれ程大きな問題とはならなくても、何らかの原因で免疫の低下しているヒトに感染すると、極めて重症となる感染症もあります。これらの「糞便からうつる」感染症の中には、病原体が感染力を持つまでに数日かかるようなものもあるため、「トイレを毎日きれいに片付ける」と言うことは有効な予防手段となります。
これらの人畜共通感染症によるヒトおよび環境への被害を最小限に食い止めるため、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)およびCAPC(伴侶動物寄生虫協議会)では、以下のような駆虫プロトコールを推奨しています。

 

・子犬とその親犬は、生まれて2週、4週、6週および8週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・子猫とその親猫は、生まれて3週、5週、7週および9週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・成犬、成猫では生活環境により1年に2~4回糞便検査をし、必要な治療を行う。

 

そして特に外出する機会の多い犬や猫の場合は、1年に12回(毎月1回)駆虫を行うことが推奨されると言うことです。

 

▽乳幼児や病人のいる家庭では動物を飼わないほうが良いのか?

これだけ怖い「人畜共通感染症」があるのですから、乳幼児や高齢者、HIVその他の免疫低下状態の方のいる家庭では犬や猫などの動物を飼うべきではないのでしょうか?新聞やヒトの医療関連のサイトなどでは、このような内容の記述を眼にすることがあります。しかし、アメリカのCDCでは「HIV感染者のための、ペットからの感染を防ぐための手引き」と言うものを出しており、このガイドラインに従って犬・猫を管理すれば「HIV患者でもペットを飼うことをあきらめる必要はない」と言っています。ですから、きちんと飼育することができれば、小さな子供や寝たきりのお年寄りのいる家庭でも、飼育をあきらめたり放棄したりする必要は全くないのです。「下痢や皮膚病などの症状が無く健康で、寄生虫の予防とワクチン接種をしっかりしてある犬・猫は、ヒトに病気を移すリスクは殆どない」と言われています。自分自身や子供の身を守るため、そしてヒトと動物がいつまでも健康に幸福に共存して行くために、定期的な駆虫とワクチン接種は必要不可欠という訳です。

ここで何故「人畜共通感染症を防ぐために猫のワクチン摂取が必要なのだろう?」と思われた方もいるかもしれません。確かに猫のワクチンの対象となっている病気(FVR, FCV,FPV+FeLV)はヒトにうつる病気ではありません。しかし、これらの「猫特有の」感染症にかかっている猫は、その他の病原体の感染に対しても非常に弱く、そのためヒトに対して様々な感染症をもたらすリスクが高くなる、というのが「ワクチン接種が不可欠」である理由です。