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狂犬病について(1)

2017.11.02(木)

▽「狂犬病」とは?

「狂犬病」はその名称から、主に犬の病気だと思われがちです。しかしながら狂犬病は「ヒト」を含む全ての哺乳動物に感染します。実際に海外では、アライグマやコウモリ、キツネ、スカンクなどの野生動物、およびこれらの野生動物と接触の機会の多い「放し飼いの猫」などから、ヒトへの感染が大きな問題となっています。アメリカやカナダを訪れたことのある人は、公園などで野生のリスやプレーリードッグなどを御覧になった事があるでしょう。しかし幾ら「可愛らし」くても、これらの野生動物は狂犬病ウイルスを持っている危険性があるので、絶対に触ってはいけません

 

狂犬病の原因はウイルスです。狂犬病ウイルスに感染し、発症した動物の唾液中にウイルスが含まれており、多くの場合これらの動物に噛まれる事で感染します。感染しても直ぐに発症するわけではなく、ヒトの場合は通常1~3ヶ月間(もっと長い例も報告されています)、犬の場合は2週間程度の潜伏期間の後、狂犬病を発症します。症状は、まず音や光に過敏になり、狂騒状態となり、動物では目の前にあるもの何にでも噛み付くようになります。やがて全身麻痺を起こし、昏睡状態となって死亡します。発症した場合、犬やヒトでの死亡率は約100%です。

 

▽狂犬病の予防接種は必要か?

「狂犬病は、日本ではもう発生がないので安全だ」ということを言う人がいます。しかし、狂犬病は本当に「過去の病気」なのでしょうか?現在、指定地域(日本の農水大臣が指定する狂犬病清浄国と地域)と言われているのは、日本や台湾、イギリス、北欧の一部やオーストラリア、ニュージーランドなど、世界のほんの一部の国だけです(※)。確かに日本では、1957年以降国内での狂犬病の発生は報告されていません。しかし地球上の大多数の国では、いまだに多くの人や動物が狂犬病で命を落としています。BBCの報道によると、昨年の1月から9月までの間に中国で狂犬病のために死亡したヒトの数はおよそ1,300人だそうです。インドでは毎年約30,000人が狂犬病に感染して死亡しており、ロシアや東南アジアでも毎年非常に多くの発生報告があります。全世界では毎年約50,000人のヒトが、狂犬病で死亡しているのが現状です。

 

海外からの動物の入国に対する日本の検疫制度が、2004年11月6日から改正になりました。これに伴い、輸入しようとする全ての犬・猫にマイクロチップの装着が義務付けられ、狂犬病発生国からの生後10ヶ月未満の犬・猫の輸入が禁止になりました。さらに狂犬病発生国から入国する場合は、狂犬病の抗体価の測定、および狂犬病の予防注射を2回以上接種していること、などが必要となります。また対象となる動物も犬や猫だけではなく、キツネ、アライグマ、スカンクまで含まれるようになりました(詳しくは農林省の「動物検疫所」のホームページを御覧下さい)。このことは、狂犬病が決して「過去の病気」などではなく、今現在も常に日本に侵入する危険性のある、非常に怖い病気である、という事を意味しています。

 

狂犬病の発生を防ぐためには、狂犬病の予防注射を接種することが重要です。本来なら、ヒトを含め全ての哺乳動物に予防接種をすべきところですが、実際にはヒトとの接触の機会が一番多い「犬」に対して、狂犬病予防注射を接種することが、現実的な対応策とされています。では日本の犬の「狂犬病予防注射」の接種状況はどうなっているのでしょうか?

 

※台湾は2013年7月より指定地域から削除されました。2013年9月現在、日本以外の指定地域(農水大臣が指定する狂犬病清浄国および地域)はアイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムの6つだけです。

 

▽日本での狂犬病予防接種状況

日本では、生後90日齢を過ぎた犬には狂犬病の予防接種を受けさせる事が法律で義務付けられています。平成14年度のデータでは、日本国内の犬の登録件数は約600万頭となっており、この年の狂犬病予防注射接種率は約76%と言う比較的高い数字となっています。ところが、実際には犬を飼っていても登録していないケースがかなりあると予想され、現実の犬の国内飼育頭数は約1000万頭以上と考えられています。従って、実際の狂犬病予防注射接種率は50%以下、ということになります。万が一、日本に狂犬病ウイルスが侵入した場合、これは極めて危険な状況と言わざるを得ません。

 

ここ数年のSARSや鳥インフルエンザ、BSE発生に対する国内の騒動を見れば、もしも日本で狂犬病が発生した場合、国中がパニック状態に陥る事は想像に難くありません。しかも狂犬病の場合、感染して発症した場合の死亡率はほぼ100%ですから、その脅威はSARSや鳥インフルエンザ、BSEの比ではありません。SARSや鳥インフルエンザのときは、飼っているハクビシンや鳥を放してしまう無責任な人もいたと聞きます。しかし、一人ひとりが責任を持って飼犬の狂犬病予防注射を受け、国内のワクチン接種率を高い水準に保つことができれば、このようなパニックに陥る必要は全く無くなるのです
自分の愛犬を守るため、自分達人間の命を守るため、愛犬に狂犬病の予防注射を接種することは、飼い主として果たすべき社会的責任の一つであると言えるのではないでしょうか。

 

▽狂犬病予防注射の接種時期

区・市役所に「飼犬の登録」をしている人は、毎年3月になると「狂犬病の予防注射のお知らせ」の葉書が送られてくる事と思います。これは日本では4月の初めが「狂犬病予防週間」として定められているからです。なぜ4月か、と言えばこれは行政の業務の都合であり、獣医学的な理由からではありません。従って、なんらかの都合により4月に狂犬病の予防注射を接種できなかったとしても、他の月に接種すれば全く問題ありません。なかには毎年9月や12月に接種している、という方もいます。ただしこのような場合には、市や区から「今年度の狂犬病予防接種をまだ受けていません」と言うお知らせが来る場合があります。これは、行政が4月からの年度制を基準にしているため、例えば前年の12月に注射をしていたとしても、「今年度は未接種」と見なされてしまうためです。しかし、きちんと毎年接種しているのならば、何ら問題はありませんのでご安心下さい(但し、真夏の暑い時期にワクチンを接種するのはあまりおすすめではありません)。