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術後の抗生物質の投与に関して

2017.11.02(木)

「抗生物質」とは?

抗生物質という言葉は、皆さんも良く耳にされることと思いますが、実際にどんな薬のことを言うのか、ご存知でしょうか?「抗生物質」とは、読んで字のごとく「抗‐生物‐質」、つまり生物(主に細菌)に対抗するための薬のことで、種類により細菌を死滅させてしまうものや、増殖を止めるだけのものなどがあります。俗に「化膿止め」などと称して処方されることもありますが、体内や体表の細菌の繁殖を抑えたり、細菌自体を破壊したりして、感染から体を守るために投与される薬です。

 

手術時の「抗生物質投与」について

私達を取り巻く環境中には、眼に見えない細菌やカビが溢れています。私達人間を含めて、あらゆる動物の皮膚や腸の中にも「常在菌」と呼ばれる細菌が生活しています。手術の際に、全身麻酔をかけることにより体温や恒常性が低下して、抵抗力が低下すると、普段は何ら悪さを働かないこれらの細菌達が増殖し、手術部位 の感染(化膿)が起こる、と考えられています。これを防ぐため、手術の際には抗生物質を、予防的に投与することが推奨されて来ました。 しかしこの考え方は最近変わりつつあります。

 

「薬剤耐性菌」について

抗生物質には多くの種類があり、それぞれに作用のし方や「効く細菌の種類」が異なります。目的とする細菌の種類によって、使用する抗生物質の種類も少しづつ違うのです。ところが、今まである細菌に対し「効いた」はずの抗生物質が、次第に効かなくなってしまうことがあります。これは、細菌が、その抗生物質に対し、「抵抗力=耐性」を持ってしまったためです。このような細菌を、「薬剤耐性菌」と呼びます。「薬剤耐性菌」は、正常な免疫力をもったヒトや動物には殆ど無害ですが、老齢や病気、免疫抑制剤を投与している場合など、免疫が低下しているヒトや動物にとっては大きな脅威となります。特に人間の病院では「MRSA」の院内感染などが大きな問題となっています。

 

「耐性菌」を増やさないために

このため、「耐性菌」を増やさないことは、公衆衛生的にも非常に大切なことです。「耐性菌」を増やさないためには、「不必要な抗生物質の使用を避ける」ということが重要です。1999年に「アメリカ疾病予防局(CDC)」より出された「手術部位 感染の予防に関するガイドライン」では、「抗生物質は手術中適切な血中濃度を維持する様に投与し、術後に予防的投与を延長しないこと」としています。またこの報告では、抗生物質の「予防的投与」と術後の汚染による「感染予防」の間には関連性がない、ともしており、通常の手術では術後抗生物質を予防的に投与する必要がないことを説いています。また最近では「米国獣医学会」でも、不要な抗生剤の使用を避けるよう呼びかけています。
そもそも「抗生物質」は感染の「治療薬」であり、決して「予防薬」ではありません。しかしながら実際には「抗生物質を投与せずに感染が起きたらどうしよう」という不安感を払拭するだけの目的で、不必要な抗生物質の投与が頻繁に行われているのが現状です。つまり、人間が自らの手で薬剤耐性菌を作り出し、今度はその耐性菌に自分たちが苦しめられ、さらに強力な抗生物質を開発して乱用する、という悪循環に陥ってしまうのです。今回のCDCのガイドラインは、この悪循環に一定の歯止めをかけるのに役立つことと思われますが、私たち一人ひとりが意識して事態を改善して行こうとしない限りこの状況はなかなか変わらないでしょう。

 

当院での「手術の際の抗生物質投与」の方針

これら最近の動向を踏まえ、当院では、

 

1)術前および術中の適切な抗生物質の投与
2)清潔な手術操作
3)感染を起こし難い手術材料(縫合糸など)の使用
4)患者間感染の防止

 

などの徹底により不要な抗生物質の使用を最小限にするよう心掛けています。著しい汚染や感染を伴わない手術(例;不妊手術や去勢手術など)の際には、原則として退院時に抗生物質を処方しておりません。今まで「手術後は抜糸まで抗生物質を投与する」のが「常識」と考えていた方は、「本当に大丈夫?」と心配されるかもしれません。しかし、「常識」は時代と共に変わるものです。皆様のご理解とご協力を、宜しくお願いいたします。

 

▽補足と注意点

手術の性質によっては手術前日〜数日前から抗生物質の投与をお願いする場合があります。また、術前・術後の投与法に関しては、獣医師の指示に従ってください。このガイドラインは「予防的投与」に関するものであり、皮膚病やその他、感染症に対する「治療的投与」に於いてはこの限りではありません。