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「犬、猫は『風邪』をひくのか?」

2005.05.15(日)

毎年冬から春にかけて、インフルエンザが猛威を振るいます。今年も例外ではなく、皆様の中にもインフルエンザで苦労された方が多数いらっしゃるのではないしょうか?インフルエンザには罹らなくても、この時期は「風邪」をひく人が、数にすればその数倍いるものと思われます。この季節は丁度受験シーズンなどとも重なるため、受験生の皆さんにとっては、「風邪」を予防することは「受験勉強すること」と同じくらい重要なことですね。

 

さて、動物病院にも、犬や猫が「風邪をひいたようだ」と言って連れて来る方が時折いらっしゃいます。我々も、症状がさほど著しくないような場合には、「風邪のようなものかもしれませんね」と言うような言い方をして様子を見ることもあります。犬や猫などの動物は本当に「風邪」をひくのでしょうか?
動物に「風邪」という病気があるかどうかを考えるためには、その前に「人の風邪」について、正確に知っておく必要があります。私達は日常的に「風邪」という言葉を使っていますが、では一体「風邪」とは何なのか、ここで確認してみましょう。

 

「風邪」と言うのはひとつの疾患を言い表す「病名」ではありません。2003年に「日本呼吸器学会」がまとめた診療指針「成人気道感染症診療の基本的考え方」によると、いわゆる「風邪」とは、急性の上部気道炎(喉から鼻までの炎症)で主にウイルス感染が原因であり、発熱、鼻汁、喉の痛みや咳などの症状がみられるものの総称ということになっています。そして、インフルエンザやその他の細菌感染などと区別するように、以下のようなポイントが挙げられています(以下抜粋)。

 

1)普通は3-4日(中には14日程度かかるものもある)で自然に治る。風邪薬で治るものではない。

2)ウイルス感染なので抗生物質は効かない。

3)発熱は身体がウイルスと戦っている証拠であり、ウイルスの増殖を抑えるのに必要な免疫反応である。

4)したがって、解熱・鎮痛剤は症状が余程ひどくない限りむやみに使用しないほうが良い。

5)手洗い、うがいで予防することが大切

 

つまり、「風邪」とはウイルスによる上部気道感染で、栄養と休養をしっかり取れば通常1週間前後で治ってしまうので原則的に病院で治療したり薬を飲んだりする必要はなく、予防が大切、ということになります。ちなみに、インフルエンザは咳やくしゃみなどからの飛沫感染が主な感染経路ですが、通常の「風邪」の場合にはウイルスに汚染された指で目や鼻の粘膜などを触ることによって感染する「接触感染」がメインの感染経路であることが知られているそうです。つまり「風邪」の予防にはうがいよりもむしろ、手洗いのほうが重要性が高いということになります。

 

それでは、動物にはここで挙げた条件に合致するような「風邪」に当たる病気は存在するのでしょうか?

 

猫には俗称「猫カゼ」と呼ばれるウイルス疾患があることが知られています。この病気は正確には「猫伝染性鼻気管炎(FVR)」と言って、ヘルペスウイルスの一種が原因で起こる猫の伝染病です。この病気は特に子猫で重症の鼻炎や上部気道炎を引き起こし、同時に角膜炎や結膜炎など「目の粘膜」にも激しい炎症を引き起こします。中には固まった鼻汁と目ヤニで目が開かなくなってしまったり、結膜が癒着してしまうようなケースもあります。体力の無い子猫では、症状が重度な場合には衰弱して命を落としてしまうこともあります。またヘルペスウイルスの特徴として、症状が改善して一見治ったように見えても、慢性化して後で再発したり、慢性鼻炎として症状が一生涯継続することも稀ではありません。したがって、この病気は「治療しなくても数日で治ってしまう」風邪とは「かなり違う病気」であることが解ります。つまり「猫カゼ」は明らかに「風邪」ではありません。

 

では犬ではどうでしょうか?犬には通称「ケンネルコフ*」と呼ばれる伝染性の呼吸器病があります。ケンネルコフは別名「伝染性気管気管支炎(ITB)」などと呼ばれることもありますが、人の風邪の場合と似ているのは、この病名が「幾つかの病原体を原因とする呼吸器疾患」の総称であるという点です。では「ケンネルコフ」は「風邪」なのでしょうか?ケンネルコフは、その別名であるITBという呼び名からも解るように、「気管支炎」を効率に引き起こします。気管支炎は、もう少し症状が進行すればすぐに「肺炎」へと移行します。肺炎は「上部気道炎」ではありません。もちろん人の風邪の場合でも、こじらせて肺炎になる場合が無いとは言えませんが、かなり稀なケースではないでしょうか?ケンネルコフの原因となる病原体の中には確かに、比較的症状が軽く、殆ど治療らしい治療を必要とせずに数日で改善してしまうものも含まれてはいます。しかし、中には非常に重症化し、数週間から数ヶ月の治療を要するものも珍しくありません。そして初期段階ではこれらを区別することが非常に困難なのです。ですから人の風邪と同じように軽く考えてしまうと治療のタイミングを逃してしまい、危険な場合もあります。

 

という訳で、私の結論としては「猫には風邪はない」「犬には風邪と似たような病気があるのかも知れないが、初期に正確な診断を下せないため『風邪』だとは思わないほうが良い」と言うことになるのですが、皆さんのお考えは如何でしょうか?

*ケンネルコフ:”kennel cough”;本来の発音からすると「ケネルコフ」と表記するのが正しいと思われますが、ケンネルコフが一般的な様なのでここでも「ケンネル・・・」を使用しました。