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CASE-1  大腿部の腫瘍切除後の術創離開 【ドーベルマン 13歳 オス】

2017.10.31(火)

「ドーベルマンの左大腿部にできた拳大の腫瘍(血管周皮腫)を切除し縫合したが、離開してしまった」とのことで紹介されてきた症例。初診時の治療前の写真が無いのが残念であるが、離開創は約10cm四方もあり、深さも3cm近くある大きな陥没創となっていた。創面には血餅や壊死組織が大量に見られたため水道水で洗浄しながら除去した。また同時に周囲の組織にうっ血が見られたが、これは恐らく「足りない皮膚」を無理に寄せて縫合したためテンションがかかり、組織が締め付けられたためと考えられた。したがって無理なテンションがかかっている部位の縫合糸を全て抜糸し、開放創とした。写真は、創面に生理食塩水に浸したガーゼを当て、フィルムドレッシングで被覆したところである。生食ガーゼの交換は1日3回行った。これにより創面の壊死組織の除去と乾燥の防止が可能となる。

 

治療開始後4日目。創面の肉芽組織の増殖は良好である。傷は大きくなったように見えるが、実は縫合創のテンションが解除され、元のあるべき大きさに戻ったためである。この傷を外科的に閉鎖するためには、ほぼこれと同じ大きさの「皮弁」を使わなければならない。高齢でもあり、飼い主も手術を望まなかったため、このまま被覆材による「閉鎖療法」で上皮化させることとした。
うっ血も消え、壊死組織も無くなったので、ハイドロポリマー・ドレッシングによる被覆を開始し、3-4日に一度交換することにした。

 

上の写真は左から「10日目」「14日目」「18日目」である。肉芽組織の増殖は極めて良好であり、創面は急速に縮小しているのがお解かりのことと思う。一番右の写真(18日目)では上皮化もかなり進んでおり、創面の面積は4×5cm程度に縮小している。 このころより被覆材をポリウレタンフォーム・ドレッシングに切り替えた。

 

一番左は39日目のものである。かなり上皮化が進み、上皮化していない部分は中心部分の1cm四方のみを残すだけとなった。治癒前半に比べて時間がかかっているように感じられるかもしれないが、これは肉芽組織を形成する「繊維芽細胞」に比較して、上皮細胞は増殖が遅いためである。しかしながら、これだけ大きな陥没創が外科的に手を加えずに40日程度でほぼ治癒しているのは、当初の予想を上回るスピードである。
真ん中の写真は、 41日目のものであるが、このとき残念ながら患者(ドーベルマン)自身が傷をかじってしまい、せっかく上皮化した部分を大幅に破壊してしまった。出来上がったばかりの上皮は非常に薄くデリケートなので、犬が舐めたりかじったりすればひとたまりも無い。再上皮化にはさらに時間がかかることが予想される。右は50日目のものである。この辺りではハイドロコロイド・ドレッシングポリウレタンフォーム・ドレッシングを状況により使い分けている。

 

さらに9日後の59日目、ゆっくりではあるが徐々に再上皮化している。

 

それから約10日後、治療開始時から数えて70日目、完全に上皮化した。
本症例では、筋肉層まで露出する非常に大きな陥没創であったにも関わらず、約2ヶ月程度で完全治癒となった。途中でのアクシデントが無ければ1ヶ月半くらいで上皮化していたものと考えられる。当初の予想では2-3ヶ月かかるものと思っていたが、最初の段階での肉芽の増殖が非常に良好であったのが治癒期間短縮の大きな要因であったように思う。
治癒後の傷は、瘢痕収縮も無く運動の妨げとなるような拘縮もまったく見られない。
本症例の治療全般にわたり、傷の洗浄には生理食塩水ではなく水道水を使用した。また感染徴候は一度も見られなかったため、抗生物質は一切使用していない。