ブログ・コラム
Blog傷の正しい処置のしかた
2017.10.31(火)
▽はじめに
全ての傷はひとつとして「同じ」ものはありません。一見同じように見える傷を同じように治療した場合でも、治癒までの期間に大きな差が出る事も珍しくありません。傷の大きさや深さなどの条件のほかに、傷のある場所や傷を持つ動物の動物種、年齢、栄養状態、遺伝的性質などの身体的条件も、治癒に大きく関わってくるからだと思われます。従って、全ての傷の治療に通用する「唯一つの治療法」というのは存在しません。傷の状態を見ながら、その度ごとに適切な治療法を選択し、経過を観察しながら必要に応じて治療法を変えてゆくことも大切です。
しかしながら、多くの傷の治療に関して共通した「注意点」と言うものは存在します。ここでは、幾つかの傷の状態に応じて「これだけはすべき」というポイントを簡単に説明します。
▽「感染創」か「非感染創」かを区別する
「創傷感染の定義」のところで説明したとおり、「腫脹」「疼痛」「発赤」「熱感」の「炎症4徴候」が見られるか、明らかに膿が溜まっているような場合には「感染創」と判断されます。ただし、「膿」と「浸出液」は全く違うものですから間違えないように注意する必要があります。
「感染」があると判断された場合には、抗生物質の全身投与を行います。また感染徴候が無くなるまでは、閉鎖性ドレッシング材による密封はすべきではありません。
▽「異物・壊死組織・膿」は完全に取り除く
傷の中に入り込んだ汚染物質や壊死した組織はできる限り早めに取り除きます。火傷などの傷では、最初の段階では完全に壊死組織を取り除く事が出来ないこともあるので(数日かけて徐々に損傷組織の壊死が進行してゆくため)、このような場合には治療のたびに少しずつ壊死組織を取り除いてゆきます。異物や壊死組織は「細菌」の増殖の場になりますから、これらが残っている状態では傷を密閉すべきではありません。
新鮮外傷では、傷の中に土や植物片や毛などの異物が入り込んでいる事がよくあります。これら異物をしっかり洗い流す事が大切です。傷の洗浄は生理食塩水でも構いませんが、大量の流水が必要な場合は水道水で充分です。
猫の背中に出来た膿瘍
大量の膿と壊死組織が見られる
▽ドレナージをする
「ドレナージ」とは過剰な体液を排出させる事を言います。「浸出液」は傷の治癒に必要である、と書きましたが、中には浸出液が過剰に分泌されすぎて、傷の管理がうまく行かない場合もあります。このような場合には、過剰な浸出液を傷の外に出すように、チューブやドレイン用ガーゼなどを使って「排液」をすることが大切です。ポケット状の傷の中に膿が溜まっている「膿瘍」などの場合には、膿を排出させた後、傷口が直ぐにふさがってしまわないように、ドレインを入れておくことが必要になります。
▽適切なドレッシング材を選択する
傷を保護したり、湿潤環境を守るために傷を覆うものを「ドレッシング材」と言います。ドレッシング材には様々なものがありますが、傷の状態に応じて適切なものを選択し、適切な期間で交換する事が重要です。治癒の経過が良くない場合には、治療法を臨機応変に変えてゆくことも大切です。ドレッシングには傷を完全に密封するもの、ある程度通気性を残した「半閉鎖性」のもの、ジェル状のもの、ガーゼのように閉鎖性の全く無いものなどがあります。上記にもあるように、感染の治まっていない傷、壊死組織や異物が完全に取り除かれていない傷は「密封タイプのドレッシング材」を使用すべきではありません。
▽上皮化
ドレッシング材の選択と交換の間隔が適切なら、傷は徐々に修復して行きます。深い傷の場合にはまず、線維が細胞からなる「肉芽組織」が増殖して来ます。そして肉芽組織の上に表皮細胞が移動して、傷が上皮化します。もちろんこの時、ドレッシング材を使ってゆっくり上皮化させるのではなく、外科的な方法により手術で傷を閉じるのも選択肢の一つです。
治癒したばかりの傷は上皮がまだ薄く、不安定なため、動物が舐めたり引っ掻いたりしないように物理的な保護をする必要があります。また紫外線により刺激を受け易いため、人の場合などは特に、上皮化してから半年くらいは日焼け止めクリームを塗って皮膚を保護する必要があります。動物の場合には「日焼け止めクリーム」を塗る必要性を感じた事はありませんが、治癒後数ヶ月間は長時間紫外線を浴びるような状況を避けた方が良いでしょう。