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CASE-3 会陰尿道瘻術後の皮膚壊死と尿路変更術

2017.11.01(水)

この症例は、他の動物病院からの転院例です。転院前の病院で、会陰尿道瘻形成術という手術を受けたと言うことなのですが、術後に縫合部周囲の皮膚が広範囲に壊死を起こし、同時に感染状態となり、抗生物質を色々と種類を変えながら治療をしたものの改善せず、皮膚の壊死の範囲がどんどん広がってしまい、「お手上げ」と言う状態になってしまったところで、飼い主の方から当院に相談の電話がありました。詳しく状況を聞いた後、結局当院を受診することとなりました。

「会陰尿道瘻」と言うのは、慢性の膀胱炎や膀胱結石などにより尿道閉塞の状態を繰り返し発症する場合に、最終的な選択肢として行う手術です。尿道閉塞は、オスの猫によく発生しますが、この手術ではオス猫の陰茎の部分(尿道が細い部分)を切除して、骨盤部の太い尿道を直接会陰部に開口させて、閉塞が起きないようにすると言う手術です。それ程困難な手術ではありませんが、縫合部分が尿の出口になるため、皮下に尿が漏れたりしないように細かく丁寧に縫合する必要があります。
会陰尿道瘻の手術後のトラブルは、実は比較的多く発生します。多くの場合、それは技術的な問題により引き起こされます。また、絹糸などの不適切な手術材料を使用することでも、術後のトラブルが発生します。このような繊細な部分(しかも尿路!)の縫合には、絹糸は絶対に使用すべきではありません。この部分に一度トラブルが発生すると、尿が皮下に漏れ出して皮膚および皮下組織の壊死を引き起こし、更に感染を起こして取り返しの付かない状態になってしまいます。感染を起こした皮膚は炎症により肥厚・瘢痕化を起こし、せっかく作った尿路が再び塞がって尿が出なくなってしまいます。したがって、この手術は最初のアプローチで絶対に成功させなければなりません。

 


左の写真は当院初診時のお尻の状態。会陰、肛門周囲~尻尾の裏側の皮膚が広範囲に壊死しており、膿が溜まって「ドロドロ」の状態になっていました。あまりにもかわいそうな状態でしたが、この状態で一緒に室内に生活する飼い主の方もかなり辛いものがあるだろう、と思われました。夏場なら間違いなく、ウジが湧いていたかもしれません。猫本人もかなり辛い様子で、痛みも相当あるものと思われました。

兎に角「一刻も早く何とかしてあげたい」と考え、全身麻酔下で壊死組織を完全に取り除く処置をしました。

 

麻酔下でデブリードマンした後の写真です。仰向けの姿勢なので、右下が尻尾です。

これでもまだ少量の壊死組織が残っているので、ハイドロジェル・ドレッシングを使用しながら、サランラップを使用したwet to wet dressingを行い、1日2回交換としました。

また、この状態で尿道にカテーテルの挿入を試みましたが、尿道は炎症と瘢痕化で狭窄しており、恐らく後数日で閉塞してしまう可能性が高い、と判断されました。なんとか会陰部の尿道を残そうと、暫く頑張りましたが、健康な尿道粘膜は殆ど残っておらず、「ズタズタ」の状態であったため、仕方なく「恥骨前縁尿道瘻形成術」と言う手術を併用することにしました。

「恥骨前縁尿道瘻」と言うのは、会陰部の尿路が使用不可能となった場合に、尿道を腹部に開口させる方法です。膀胱頚部の機能が温存されていれば、ある程度自分で排尿を随意的にコントロールすることも可能ですが、開口部周囲の皮膚が常に尿で汚れるため、皮膚炎を防ぐための管理が大変です。したがって、これも出来る限り他の方法をトライして、だめだった場合に最後の手段として行うべき手術です。

 

予定では、骨盤部から尿道を引き出して腹部に縫い付けるはずだったのですが、この猫の膀胱が異常に小さく、硬く萎縮しており、且つ骨盤腔内に奥深く入り込んでいるため、尿道を引き出すことが出来ませんでした。(黄色矢印;骨盤恥骨結合部青矢印;膀胱体部
仕方なく、膀胱体部を切開して、直接腹部に開口させることとしました。膀胱壁は異常に分厚く肥厚して硬くなり、伸縮性が完全に欠如している状態でした。このような膀胱の異常が先天的な問題なのか、慢性の膀胱炎による変化なのかは不明でした。

 

腹部に膀胱を開口させたところです。丁度乳頭部分の皮膚を引っ張ってきて、尿路の開口部に使用しました。乳頭部分の皮膚は毛が生えないので、腹部の尿路開口部に使用するには比較的適しています。

 

左は手術翌日のお尻の状態。残った壊死組織がふやけて融解してきています。また肉芽組織の増殖が見られます。

右はその4日後。健康なピンク色の肉芽組織が増殖してきており、上皮化もかなり進んでいるのが判るのではないでしょうか?

 

左は更にその5日後の様子。最初に比べると雲泥の差。かなり良くなっています。

そして右は、さらにその2日後の写真。もう殆ど上皮化が完了しています。この数日後に退院しました。尿はお腹から出ています。

左写真;お腹にあけた尿路です。どうしても周囲の皮膚が多少かぶれてしまいますが、毎日のシャワー洗浄とワセリン塗布で何とか維持、管理しています。

右写真;お尻の状態もすっかりきれいになりました。実はこの症例、最初に外科的にデブリードマンした後は、殆ど抗生物質を使用していません。壊死組織さえなくなれば、抗生物質は必要ないのです。