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CASE-2 糖尿病性ASO(慢性閉塞性動脈硬化症)によると思われる皮膚とアキレス腱の壊死を生じた猫

2017.11.01(水)


日記のところでも紹介したが、糖尿病治療中に左後肢の踵の部分の皮膚に壊死があるのを見つけ、治療した症例である。「壊死」の正確な原因は不明であるが、人の場合の糖尿病ではASO(慢性血管閉塞性動脈硬化症)という病態が頻繁に起こることが知られている。動物では糖尿病に関連してASOが起こることはあまり経験が無いが、状況から判断してASOの可能性が高いのではないかと思っている。
上の一番左の写真は、皮膚の壊死を発見して毛を刈ったところである。健康な皮膚との境目が明瞭である。真ん中の写真は、壊死した皮膚を除去してアキレス腱が露出した状態。この時点ではまだ「壊死」は皮膚のみに限定されていると思っていた。ハイドロジェルで被覆して数日経過したのが右上の写真。周囲の軟部組織には健康な肉芽組織の増殖が見られる。

 

左上の写真は、治療開始してから丁度1週間が経過したところである。壊死組織はかなり融解し、傷そのものも少しづつ縮小して来ている。しかし「アキレス腱」の周囲の筋膜はいつまで経っても「モヤモヤ」と生気の無い組織で、「生きた組織」が出てこない。ハイドロジェルで少しづつ融解して段々細くなってきている感じがする。この辺りから「もしかしたらアキレス腱自体も壊死しているのではないか?」と疑い始めた。真ん中の写真では、周囲の皮膚および皮下組織の壊死組織は完全に取り除かれているが、アキレス腱と踵周囲の筋膜・腱組織には相変わらず全く生気が無い。右の写真は「溶けて細くなったアキレス腱が切れる寸前」の写真。結局この直後にアキレス腱が切れたが、痛みも出血も無かった。アキレス腱は既に壊死していたのである。ただ、「腱」と言う組織は物理的に「丈夫」に出来ているため、壊死しても暫く踵の骨に付着して「頑張って」いたのであろうと思われる。

 

左上は「アキレス腱」が切れて数日経過した様子。腱が切れたことで傷全体が収縮しやすくなり、特に「ふくらはぎ」に近いほうの傷の幅が極端に狭く縮小した。写真は「踵」の部分の骨が突び出すので「破骨鉗子」で削ったところ。真ん中の写真では、傷の上の部分は完全に上皮化した。ここまでで約3週間ちょっとである。まだ骨が少し見えているが、肉芽の増殖は良好である。 右は治療開始から約1ヶ月経過したところ。この後、上皮化には少し時間がかかっている。「肉芽組織」に比較して上皮の細胞は増殖が遅く、破壊されやすいのも原因であるが、本猫が自分で齧ってドレッシングを取ってしまったり 、包帯がずれてきつく締まってしまい、鬱血を起こしたりしたのも原因とひとつであると思われる。

 

左上は約2週間くらい前の状態。上皮化の過程で幾つかトラブルが生じたり、上皮化が停滞したこともあったが、途中ステロイド軟膏を使用したり被覆材を変更したりして、なんとかここまでたどり着いた。最終的な上皮化には「アルギン酸」と「ハイドロコロイド」が功を奏した印象がある。真ん中の写真が約1週間ほど前、そして右が本日(6月15日)の写真で、完全に上皮化している。これで「治癒」と言って良いが、上皮化したばかりの皮膚は薄く剥がれやすいため、もう数日だけハイドロコロイドで保護することにする。「壊死」を見つけたのが3月の終わりであるが、ある程度壊死組織を除去して「治癒」に向けた治療が開始できたのが4月中旬ごろであることを考えると、約2ヶ月で完全に上皮化させることが出来たと言うことになる。糖尿病を患い、インスリンで「取り敢えず」の血糖コントロールをしながら、踵という難しい部分の壊死による創傷を治療した経過としてはまずまず良好な経過だったのではないだろうか。
傷が完全に治った時点で再度血糖値のコントロールを「きちんと」やり直す必要があると思うが、このままでも全身状態としては非常に良好である。