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不妊手術について

2017.11.02(木)

■不妊手術とは?

不妊手術とは、繁殖により子孫が生まれないようにするための手術で、一般的に雄の場合なら「去勢手術」、雌の動物なら「避妊手術」と呼ばれています。動物を「繁殖」目的で飼育する場合以外は、不妊手術を実施するのが一般的です。犬と猫の場合に於ける、不妊手術のメリットとデメリットに関しては、こちらを参考にしてください。

 

■不妊手術の方法

雄の場合の不妊手術(去勢手術)では、両方の精巣を切除します。陰嚢またはその直ぐ上の皮膚を切開し、精巣を露出させて血管と精索という管を糸で結紮して、摘出します。切開した皮膚は縫合して閉じます。猫の去勢手術の場合は、切開した陰嚢の皮膚の収縮が早く、縫合の必要が無い場合もあります。
精巣はもともとお腹の中にあったものが、生後数週間(場合によっては数ヶ月)の間にお腹の外=陰嚢に降りてきます。しかし、ときおり精巣がお腹の中に留まったまま、成長が終わっても降りてこない場合があります。このような状態を「潜在精巣」と呼びます。お腹の中に残った精巣は、そのままにしておくと、数年経ってから「腫瘍化」する可能性が高く、「セルトリ細胞腫」という悪性腫瘍が発生した場合には、腫瘍細胞から過剰に分泌されるエストロジェンにより骨髄抑制が起こり、不可逆性の貧血・血小板減少症を引き起こして命を落とす場合があります。このため、潜在精巣が判明している場合には早期にお腹の中に残っている精巣を摘出することが推奨されます。
精巣が、お腹の外には出ているけれど、陰嚢には到達していない、というケースもあります。多くの場合はソケイ部などの皮下に留まっている事が多く、この場合も正常な精巣に比較すると腫瘍化するリスクは大きいと考えられるため、早期に摘出すべきと考えられます。

雌の場合は、 卵巣だけを摘出する方法と、卵巣および子宮を摘出する方法と、大きく2通りの方法に分けることが出来ます。一昔前までは、卵巣だけを摘出する方法が主流でした。その後、卵巣だけを摘出して子宮を残すと、残った子宮が蓄膿症になるなどの説が広まり、現在では「卵巣および子宮」を摘出する方法が一般的となっています。ところが、繁殖学の専門家の最新の知見では、「健康な子宮は切除せずに残しておいても、蓄膿症などの合併症を起こすことは理論的にあり得ない」とされているのです。つまり、卵巣だけの摘出でも全く問題が無い、とうことが判って来たのです。
しかしながら、現在日本国内では「卵巣子宮摘出」が主流です。またアメリカなどの海外でもこの方法が主流となっているようです。その理由として、「卵巣摘出では卵巣の取り残しを起こす確立が高い」というのが一番に挙げられるようです。アメリカは訴訟社会ですから、切除したはずの卵巣を取り残して、子宮蓄膿症などの合併症を起こした場合には、獣医師の責任が大きく問われる事になります。このため、より確実に大きく切除して取り残しが無いようにする方法として、卵巣子宮摘出術が多く採用されている、という実情があるようです。日本の獣医学はアメリカの影響を強く受けているため、日本でも同様の方法が一般的になっているものと考えられます。

当院では、上記の「健康な子宮は切除せずに残しておいても、蓄膿症などの合併症を起こすことは理論的にあり得ない」と言う最新の考え方を採用し、特別な理由が無い限り「卵巣だけの摘出」を行っています。

過去数年間にわたり卵巣摘出を100例以上で実施しておりますが、取り残しや子宮蓄膿症などの合併症を起こしたケースは1例もありません。反対に、(他の病院で)卵巣・子宮摘出を実施されていたケースで、子宮の結紮/切除部位に膿瘍や縫合糸に対する異物反応を起こしたため開腹による切除が必要となった症例や、子宮の切除が不十分で、いつまでも陰部からの粘液分泌が続いて治まらなかった症例などを幾つも経験しています。このような事も考え合わせると、卵巣だけの摘出は合併症も少なく、そのメリットは大きいものと思われます。

例外的な注意として、将来「乳腺腫瘍」が発生し、性ホルモンとしての作用を持つある種の抗癌剤を使用した場合、残した子宮が蓄膿症を発生する可能性があります。しかし、乳腺腫瘍に対して抗癌剤を使用することがそれ程一般的ではないこと、さらにこの抗癌剤は副作用が強く効果も一定ではないため、動物での使用は極めて限られている事、などから、この薬剤使用による合併症の発生は、リスクの大きさとしては非常に小さなものと考えられます。

不幸にして、残した子宮に腫瘍などの疾患が発生する可能性もゼロではありません。そこに「細胞」がある限り、腫瘍が発生する可能性を否定できるものではありません。しかしながら、その可能性はその他の臓器や組織に腫瘍が発生するリスクと同等のものであり、これを防ぐために子宮を切除するというのは例えば、極端に言えば「骨肉腫が出来るといけないので健康な足を切断する」とか、「血管肉腫ができるといけないので健康な脾臓を摘出する」と言うのとあまり変わらない発想になります。

「それでも卵巣と子宮を取って欲しい」というご希望がある場合には、もちろん「卵巣・子宮摘出」を実施しております。

Ohio State Universityの獣医軟部外科専門医Dr.Smeakとの会話も参考になります。

 

■不妊手術はいつすれば良いか?

「去勢手術」「避妊手術」はいつ頃すればよいのか?と言うのはよく受ける質問です。これは「何を目的とするか」により、適切な時期が異なります。
単に「繁殖を防ぐため」だけであれば、時期はいつでも構いません。繁殖してしまう前に手術を受ければよいでしょう。また「攻撃性」などの問題行動を防ぐ目的ならば、なるべく早期に不妊手術をすべきです。最近のアメリカでは、子犬や子猫がまだかなり小さいうちに手術をしても、特に大きな問題はない、という考え方もあるようです。しかし日本では習慣的に、あまり小さな子犬や子猫に全身麻酔をかけて手術を行うことはされていません。当院でも、特別な理由が無い限り、生後2ヶ月以内の動物に全身麻酔をかけて手術する事は出来る限り避けるようにしています。

一番問題になるのは、雌の犬における「初回発情」との時期的な兼ね合いでしょう。初回発情(生理)が来る前に避妊手術を実施すると、将来的に乳腺腫瘍の発生率が低くなる、というデータがあります(※)。このため、生まれて最初の発情が来る前に避妊手術を行うのが効果的であると言われています。早い個体では生後5ヶ月齢くらいで初回の発情が来てしまうこともあるため、4-5ヶ月齢のころには手術を考えた方がよいかもしれません。もちろん、手術前に発情が来てしまったら絶対に将来乳腺腫瘍が発生する、と言うわけではありません。たとえ何度か発情を経験してしまった後に手術した場合でも、避妊手術をしない場合と比較すると乳腺腫瘍の発生率はやや低くなると言われています。猫の場合も、(犬の場合ほどはっきりした関連性は見られませんが)避妊手術をした猫の方が、手術をしていない猫よりも乳腺腫瘍の発生率が低い、と言われています。

つまり、特に雌犬の場合は、「乳腺腫瘍」の問題に拘るのなら、生後4-5ヶ月くらいで避妊手術をすることを考える、それ以外の場合は、ある程度成長が終わった時点(1歳前後)で手術を考えるのが、現段階では適切ではないかと思われます。

※ 追記(2013年9月);近年、雌の不妊手術の実施時期と乳腺腫瘍の発生率との因果関係が曖昧になりつつあります。世界中の信憑性のありそうな文献を調査した結果、今まで考えられていたほどには明確な関連性は確認されなかった、という文献が発表されました。詳しくは院長のブログをご覧ください。