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2025.09.17(水)

「傷を乾燥させてはいけない」という考え方は今ではかなり一般的に浸透してきました。薬局に行くとキズパワーパッドをはじめとする「傷を乾燥させない」ための絆創膏(もちろんヒト用)が何種類も売られています。

「傷を乾燥させずに湿潤環境下で管理する」という考え方は、1960年代初頭にDr. George D. Winterという人によってNature誌に発表された論文が元になっています。Winterは、豚の皮膚を使用して「傷は湿潤環境下で管理した方が早く綺麗に治る」ことを実験により証明し、これ以降この考え方をモイスト・ウンド・ヒーリング(Moist wound healing)と呼ぶようになりました。

 

ところで、ネットなどで創傷治癒について検索すると「湿潤療法」という名称が出てくると思います。これは、モイスト・ウンド・ヒーリングの日本語訳・・・ではありません「湿潤療法」という言葉は、Winterらが提唱したモイスト・ウンド・ヒーリングの理論を基に、日本の形成外科医である夏井睦先生がさらに発展させた傷の管理方法を意味する名称として使用されたのが始まりです。

「湿潤療法」には、「傷を乾かしてはいけない」という考えだけではなく

・傷を消毒してはいけない(そもそも消毒では感染の管理は出来ないし、消毒剤による細胞障害性が治癒を妨げる要因になる)

・創面に細菌がいる=感染、は間違い(皮膚や創面に常在菌などの細菌がいるのは当然であり、頻繁に細菌培養などをして「感染だ!」と騒ぐのは間違っている)

・コロニゼーション(Colonization)と感染(Infection)を臨床徴候により区別する(”感染”でない状態の患者に無闇に抗生物質投与を繰り返す行為は耐性菌を増やすだけ)

・感染の原因は多くの場合、異物や壊死組織の存在なので、これを無視して抗菌剤や消毒をしても無意味(または有害)である・・・

と言った、傷を適切に管理する上で非常に重要なポイントとなる考え方が含まれています。

しかし、残念ながらこれらのことが十分に理解されずに「湿潤療法」という言葉が使用(濫用)されているケースも多く、これによりさまざまな誤解や行き違いを生んでしまっています。

また、現在のモイスト・ウンド・ヒーリングに於いては「創傷は”適切な”湿潤環境下で管理する」ことが重要であるとされていますが、「適切」の部分が軽視され、単に「湿潤であれば良い」との誤った理解の基に「過剰な湿潤環境(過湿潤)」や「ドレナージ不足/ドレッシング交換不足」などの不適切な管理が行われているケースも非常に多く、「湿潤療法を実施しているのに治らない」などの相談を受けることもしばしばあります。

これらのことから、特に動物の創傷管理においては「湿潤療法」という用語を積極的に使用しない方が良い、というのが現在(2025年)の筆者の見解です(当然ながらこれは「湿潤療法」の理論自体を否定するものではありません)。

2017.11.02(木)

◆「褥創」の管理方法

①基礎疾患の治療と栄養管理

糖尿病や腎不全などの基礎疾患がある場合には可能な限りこれらの治療を並行して行います。栄養状態の悪化は褥創の悪化、治癒遅延に直結します。バランスのとれた消化の良い食餌を与え、適切な栄養管理をすることが大切です。

 

②圧迫を和らげる(除圧)

ヒトの場合にはウォーターベッドや体圧切替用エアマットレスなどの介護用高機能ベッドを利用することが出来ますが、動物ではこのような設備を利用することは非現実的です。

 

 

*介護用マット(お勧め)

①ドッグケアマット(ケアプロダクツ:http://www.care-products.jp
②ホームナース(田村駒株式会社:http://petsuki.com/homenurse/
③ペット専用介護マット(ユニ・チャーム ペットPro:http://pet.unicharm.co.jp/pro/

 

最近は動物用に「低反発マット」が売られているので、これを利用すると非常に便利です。低反発マットは充分に厚みのあるものを選びます。「すべり難い」ようになっているマットは、「摩擦がある」と言う事ですから、褥創対策にはあまり向いていない可能性があります。「すべり難い」タイプのマットを使用する場合には、滑りの良いシートを敷いて摩擦を軽減させてやると良いでしょう。

 

摩擦はまた別の問題を引き起こします。動物の皮膚はヒトに比べて薄く非常に伸びやすいため、体の下側になった方の皮膚が敷物との摩擦によって引っ張られたり捻れたりし易くなっています。この状態の皮膚に、更に上からの圧力が加わると、極めて容易に血行障害を起こします。ですから動物を横に寝かせた後には必ず体の下に手を入れて、捩れた皮膚を元の自然な状態に戻すように心掛けることが重要です。

 

寝たきりのヒトに於いて、褥創の出来やすい部位のひとつに「かかと」があります。「ヒトのかかと」の褥創を例にとって、正しい除圧と間違った除圧について少々説明してみます。
傷を保護する目的で、厚みのある「パッド」などを褥創に直接あててしまうと、却って圧迫が生じるため褥創は深くなります(下図;「間違い①」)。これを防ごうとして、少しずらした位置にパッドを当てて患部を浮かせようとすると、新たな褥創を作り出してしまいます(下図;「間違い②」)。正しい除圧は、下図の「正しい除圧」でも解るように、「点」ではなく「面」全体で行うようにします。

 

 

また、ドーナツのような形をした、真ん中に「穴」の開いたパッド(円座)が「褥創治療法」に市販されています(右下写真)。 教科書にも、褥創に対してこのタイプの「褥創パッド」を使用することが書かれていますが、「ドーナツ型パッド(円座)」は上図の②と同様に、周囲の血行を遮断して、却って局所に圧力を集中するため褥創が悪化すると考えられるようになって来たため、人間の褥創治療では現在殆ど使用されていません。

 

 

③体位の変換

人間の場合は、ずっと同じ姿勢で寝ていると同じ部分が圧迫され続けるため、2時間ごとに体位を変換して同じ場所に褥創が出来ないように予防するのが一応「正しい」と考えられています。しかし、最近ではウォーターベッドや高機能エアマットなど、除圧のための機器が改良され、体位変換の必要性は低くなっているようです。また体位を変換することで新たに褥創を作ってしまう可能性も指摘されており、必ずしも「体位変換」が必要なのかどうか、実際にはまだ良く判っていない部分もあります。特に動物の場合は、体位を変換しても、自分で好きな体位に転がってしまうことも多く、個体によって「右下が好き」「左下が好き」という好き嫌いがあることも多いので、エアマットや低反発マットなどでうまく除圧が出来ている場合には敢えて頻回の体位変換は必要ないのかもしれません。

 

④周囲の毛を刈る

褥創とその周囲を清潔に保つために、バリカンを使って広めに毛を刈っておくことが重要です。毛が「クッション」の役割しているように思われるかもしれませんが、実際には褥創の中に入り込んで「異物」となったり、浸出液や壊死組織がこびりついて汚くなったり、汚染や感染の原因となることも珍しくありません。また褥創を洗ったり、ラップや吸水シート(下記参照)などを褥創に固定する際にも、毛を刈っておくと非常に処置がし易くなります。したがって、褥創の周りの毛は常に短く刈っておくことをお勧めします。

 

⑤褥創の洗浄方法

褥創は出来れば毎日洗浄します。お尻の近くなどで尿や便が付きやすい場所にある場合には、排尿・排便のたびに洗う必要がある場合もあります。洗浄は、体の小さな動物ならお風呂場へ運んでシャワーで洗うことも簡単に出来ますが、中型犬くらいになるとそれもなかなか大変です。特に「寝たきり」の状態の場合には、洗ったり乾かしたりするのがとても難しくなります。そこで、100円ショップなどで売られているプラスチックのスプレー瓶(噴霧器)を使用して、ぬるま湯で洗うのが便利です。「傷」は乾燥したり壊死組織が多量に存在すると、痛みを生じます。しかし湿潤環境を維持して「肉芽組織」で覆われている限り、ぬるま湯で洗浄しても痛みを生じることは殆どありません(但し冷たい水で洗うのは、刺激にもなりますし、局所の温度が低下して血行が悪くなる原因にもなりますので、避けた方がよいでしょう)。
まず、周囲の皮膚の汚れをよく落とします。ぬるま湯で汚れをふやかしながら、ガーゼなどで優しく拭うようにして洗うようにしてください。褥創の内部は、特にやさしく洗うようにします。あまり勢いよくスプレーしないようにしてください。褥創内部は、決してゴシゴシ擦ったりして洗ってはいけません。また当然のことながら、消毒はしてはいけません
周囲の皮膚の汚れがどうしてもなかなか取れない場合には、低刺激性のシャンプーなどを使用しても構いませんが、シャンプーに含まれている界面活性剤にも細胞障害性がありますので、なるべく褥創内には入らないように注意し、洗浄後は充分洗い流す必要があります。

 

⑥壊死組織や感染がある場合

このような場合はなるべく自宅で治療せずに、「創傷治療」に詳しい病院できちんと治療してもらう方が安全です。治療の基本は「感染創」の治療と同様ですが、褥創の場合にはwet to wet dressing*のように「ガーゼやドレッシング材を創傷内に詰め込む方法」は取るべきではありません。壊死組織がある場合には外科的にデブリードマンしますが、出血するほどしっかりとする必要はありません。ある程度でデブリードマンができたら、後は毎日少しずつ融解させる方法をとりながら、壊死組織を段階的に取り除いてゆきます。感染がある場合には抗生物質の全身投与を行います。抗生物質は、血行の悪くなった場所や壊死した組織には到達しませんが、全身性の感染・敗血症を防ぐために、褥創の感染徴候が無くなるまでは投与する必要があります。

 

⑦褥創のドレッシング方法

褥創に対するドレッシング法として最も便利なのは、 「ラップ療法=開放性ウェットドレッシング法」です。これはサランラップやクレラップなどの「食品包装用」のラップを使用する方法です。ラップは厚みが無いため、褥創を悪化させることがありません。褥創の大きさに対し、ラップは大きめに切って直接創面にあてます。ラップの周囲を粘着テープなどで皮膚に固定します。このとき、毛が生えたままだとテープによる固定が困難になります。
ラップには吸水性が無いため、浸出液がはみ出して来て濡れてしまいます。そのため、ラップの上から、ラップよりも一回り大きい「ペットシーツ」などをあてて浸出液を吸い取る必要があります。部位によっては紙オムツを利用することも可能です。
ラップがどうしても使い難いとき(テープで固定できない、すぐにずれてしまう、など)は 、オムツやペットシーツに荷物梱包用の業務用テープ(ガムテープの透明なやつです)を直接貼り付けて、その部分を創面にあてるようにして使用します。要するに、オムツやシーツのザラザラした面が直接創面に当たらないようにしてあげればよいのです。

 

「ラップ」による褥創の「開放性ウェットドレッシング療法」の理論を示した模式図。
「褥創治療の常識・非常識」(鳥谷部俊一・著 三輪書店)より引用しました。

 

▼褥創に便利な自家製ドレッシング材の作り方はこちらで紹介しております。ご参考にしてください。
「自家製ドレッシング材の作り方」

 

⑧その他、注意点など

壊死組織が残っている場合でも、上記の「ラップ療法」で被覆している間に徐々に壊死組織が融解して、健康な肉芽組織が増殖してきます。浸出液が多めのときは、ラップに小さな穴を複数開けたり、水切り用の穴が開いた「穴あきビニール」などを使用してもよいでしょう。創面が乾いている場合には、白色ワセリンなどを薄く塗ってからラップをするとよいでしょう。ラップやオムツなどを固定する上で注意すべきことは、テープや包帯をきつく巻きすぎて血行を阻害したり、更なる圧迫を作って新たな褥創を作り出してはならない、ということです。
褥創は、そもそも「寝たきり」になっていること自体が原因なので、その原因を除去することが出来ない以上、完全な「治癒」が見込めない場合も多々あります。しかしその様な場合でも、感染を防ぎ、褥創の更なる拡大を防ぐために適切な処置を継続することはとても重要です。
人間では褥創を外科的に手術で治す治療法も行われています。しかし、手術による方法は一時的には治ったように見えますが、原因が除去されていないために、すぐにまた同じ部位に褥創が再発します。そのたびにまた全身麻酔をかけて手術をする、と言うのは決して良い方法とは考えられません。これは動物でも同様で、褥創を手術で治す方法はお勧めではありません。

 

・ラップを固定するのはどんなタイプのテープが適切なのか?
・ラップは動物の体に貼り付けるのではなく、ペットシーツやオムツに貼り付けた方が良いのではないか?

・ペットシーツやオムツを動物の体に固定するのはどんな方法が良いのか?粘着テープでよいのか?幅の広い柔らかい包帯を軽めに巻いて固定するのが良いのか?あるいはネットやストッキングなどを利用するのはどうなのか?
・体位変換はすべきか?不要か?必要だとすれば、どのくらいの間隔ですべきか?
・海水浴用のエアマット以外に、「使える」除圧器具にはどんなものがあるか?

 

 以上のような点に関しては、それぞれのケースにより「適した方法」が違ってくると思われます。今後様々な意見を取り入れながら、何が「最良の方法」なのか、考え続けてゆきたいと思います。

 

*wet to wet dressing;感染や壊死組織が残る創傷内に、生理食塩水で浸したガーゼを軽く詰めて、さらにその上から濡れたガーゼ(または防水ドレープやラップを使用する場合もある)で全体を覆って、乾燥を防ぎつつ、ドレナージを行うドレッシング法。生食ガーゼは1日数回交換する必要がある。交換の際にガーゼに壊死組織が付着して取り除かれる。つまりこの方法は、デブリードマンを目的としたドレッシング法である。

 

2017.11.01(水)

新鮮外傷を、ドレッシング材を使用して湿潤環境で治療する「湿潤療法」は始まったばかりで、まだまだ一般 的には広まってはおらず、その方法も決まったものはありません。どのようなドレッシング材を使用したらよいのか、交換の頻度はどれくらいか、外科的処置が必要かどうか、一症例ごとに考え、臨機応変に対応して行く柔軟さが大切です。 湿潤療法をしていると、特に慣れないうちは、本当にこれでよいのだろうか?化膿しているんじゃないだろうか?などなど様々な疑問が浮かんできます。このような疑問を集め、出来るだけ解り易く回答してみました。

 

Q-1 ジュクジュクして「膿」の様にみえるのですが?

傷からは「滲出液」という体液が分泌されます。「滲出液」の中には組織の修復に重要な役割を果 たす様々な細胞成長因子やサイトカイン、マクロファージや好中球などの免疫細胞が含まれており、傷が治るのを助けています。これは「膿」とは全く異なるもので、傷の治癒には必要不可欠なものなのです。ハイドロコロイド材アルギン酸などの場合は、ドレッシング材の成分がゲル状に溶けて滲出液と交じり合い、「ドロッ」とした「膿」の様に見えることがあります。これらの「滲出液」はちょっと汗臭いような独特の臭気がしますが、「膿」のような腐敗臭がすることはありません。「滲出液」と「膿」とを間違えて、慌てて消毒したり抗生物質の無駄 使いをしないように注意してください。

 

Q-2 湿潤療法では二次感染は起きないのですか?

「感染」とは、組織1立方センチメートル中に細菌が10万個以上存在する状態、あるいは「壊死組織」や「血餅」「カサブタ」や「縫合糸」などの異物の存在により細菌が増殖した状態で、「発赤」「腫脹」「疼痛」「熱感」を伴うものを指します。これらの「異物」をきちんと取り除いた状態で湿潤環境を維持すれば、消毒剤の使用や乾燥により組織を痛めない限り「感染」が起こることは先ずありません。ただし、他の患者の「感染創」を処置したそのままの手で、他の患者の傷に触れると「感染」を起こす可能性がありますので、ディスポーザブルの手袋を使用して、患者ごとに交換するなどの注意が必要です。

 

Q-3 被覆材は何日くらい貼りっぱなしにしておいて良いのですか?

傷の状態、被覆材の種類などにより異なります。ハイドロサイトなどのポリウレタンフォーム・ドレッシング材では、滲出液が被覆材の全面 に染み出してきて変色してきたら交換時期であると言われています。滲出液が少ない場合は、多くの被覆材では最大1週間放置してよい、とされています。しかし、閉鎖療法に慣れないうちは、頻繁に交換して傷の治癒具合をチェックするのが良いと思われます。動物の場合は、ずれたり汚れたり、などの理由により、多くの場合中2日から3日程度で交換しています。

 

Q-4 手術後の傷は毎日「消毒」しなくていいのですか?

とにかく「傷」を消毒する、と言う行為自体が無意味(あるいは有害)ですから、必要ありません。手術創のような1次縫合の傷は、縫合後24時間から48時間で上皮化しますから、それ以後は、原則的には何の処置も必要ありません。ただし、動物の場合は自分で舐めたり齧ったりして縫合糸を外してしまったり、舐め壊してしまったりすることがありますから、「傷を保護する」と言う意味でガーゼなどを当てておくのが良いでしょう。私の場合には、術後1日から2日はフィルムドレッシングで被覆し、その後はガーゼを当てて包帯や腹帯を巻いておくか、エリザベスカラーをして傷には何も巻かないかのどちらかの方法を取っています。

当院での「術後縫合創の管理」はこちらを参考にして下さい。

 

Q-5 汚染した傷を「抗生物質を溶かした生理食塩水」で洗っていますが、効果 はあるのですか?

所謂「抗生生食」というものですが、抗生物質がその効果を発揮できるのは全身投与(内服あるいは注射)のときのみです。局所の使用では、抗生物質の有効濃度までその濃度が上昇しないので、ほとんど効果 はありません(これは軟膏剤でも同様です)。むしろ効果はないが、耐性菌だけは出来てしまうという最悪の結果 になります。効果があるとすれば、生食による「洗浄効果」ですが、これが何よりも重要です。洗浄に使用するのは何も「滅菌」された生理食塩水である必要はありません。水道水で充分です。

 

Q-6 キチン・キトサンを使う方法より閉鎖療法の方がよいのですか?

私がここで説明したいのは、「正しい創傷治療」の考え方です。傷を合理的に正しく、そして早く、かつ痛くない方法で治癒させる為には、創傷面 の湿潤環境を保つことが重要で、その為には創面を閉鎖するのが理に適っており、それには現在手に入れることの出来る「創傷被覆材」を利用するのが今のところ最も便利である、ということなのです。キチン・キトサンや各種の軟膏剤、ジェルなども、創傷面 に被せて使用するものは全て「ドレッシング材」に含まれます。キチン・キトサン製剤であれ、ティートリーオイルであれ、「がまの油」であれ、どのような物を使用したとしても、傷を乾燥させたりして治癒を妨げるような方法で使用すれば、傷は治りません(治ったとしても非常に時間がかかります)。つまり、例えどんなに高価な薬剤やドレッシング材を使ったとしても、「湿潤環境での創傷治癒」;モイストウンドヒーリングを基準として考えなければ、ほとんど意味がない行為になってしまうのです。

ちなみに、私は創傷に対して「キチン・キトサン」製剤は一切使用しません。このような物質は創傷に対して炎症などの刺激を引き起こすと考えられるため、傷の治癒が遅れます。また一時期流行した「ティートリーオイル」なども、アレルギーなどの副作用や細胞障害性などの報告があるため、使用しておりません。「基本を無視しても治る特効薬」は存在しないということです

 

Q-7 「滲出液」を採材して細菌培養検査に出したら「耐性菌」が検出されたのですが、抗生物質を投与しなくて良いのですか?

皮膚には常在菌がいます。皮膚が破けて傷が出来ると、常在菌は創傷面に移動しますが、これは「感染」とは言いません。このような状態で、抗生物質を使用すると、その抗生物質に感受性のある細菌は死滅してしまいますから、たまたま耐性を持っていた細菌だけが残り、繁殖することになります。ここで細菌培養検査をすれば、「耐性菌」が検出されるのは当然の結果 です。それがたとえMRSAであったとしても、抗生物質を投与する必要は全くありません。そもそも、「感染創」でない傷に対して「細菌培養検査」をする必要性がありません。

 

Q-8 傷に使用するガーゼなどは「滅菌」のものでなくてはならないのですか?

何度も繰り返しますが、皮膚には常在菌がいます。どんなに消毒しても、皮膚全体を「滅菌状態」にすることは不可能であり、殆どの場合、消毒した10分後には元の細菌叢に戻ってしまいます。「無菌」でないものを覆うのに「滅菌」のガーゼを使用する必要性は全くありません。明らかに汚れている場合や、特定の病原菌(それこそ炭疽菌とかパスツレラ菌とか・・・)が付着しているようなことが無ければ、感染を起こすことはまず考えられません。もっとも「ガーゼ」には傷を「湿潤環境」に保つ能力はありませんから、ガーゼを傷に直接あてるのは(縫合創などを物理的に保護する目的などの他は)止しましょう。

2017.11.01(水)


症例は11歳、柴系の日本犬。

「小脳腫瘍」と診断され、立って歩くことができません。
実はこの症例、原因不明(腫瘍と関連??)の血栓症で四肢の先端が壊死してしまい、その傷の治療のため、インターネットを通じて相談を受けていました。
途中から京都で開業されている西京極動物病院の山田先生を紹介して、そちらで治療を受けてもらっていました。

3ヶ月ほど経過し、趾端の壊死もだいぶ良くなったという報告を受けた直後、右の肩に褥創ができてしまったと言うことで、再びメールで相談を受けました。

写真のように右肩を着いて動き回るため、その部分の皮膚に「床ずれ」が出来てしまったのです。

 


右の肩に、比較的大きな穴が1箇所と、小さな穴が2箇所ほど開いています。それぞれの穴は、皮下で通じているとのことでした。

このような褥創は、このまま放っておくと3つの穴が繋がって、ひとつの大きな褥創になり、皮下の軟部組織も壊死して骨が露出するようになります。

すぐに低反発マットなどを使用して患部の除圧を徹底してもらうことと、水道水での洗浄、および穴あきポリ袋でのドレッシングを指示し、1日1回程度の交換をしてもらうようにしました。

 

その後、周囲の皮膚の汚れのために一見「悪化している」様にも見えますが、肉芽組織が増殖して皮下のポケットは消失しているようです。右の写真では、周囲の皮膚から上皮化が進んでいる様子(薄っすらと白い「薄皮」が貼ってきている)が判ると思います。このまま微温湯と穴あきポリ袋によるドレッシング、もしくは浸出液が少ない場合はラップによる被覆を指示しました。

 

微温湯による洗浄とラップでの被覆を続けて頂きました。右の写真は自宅治療開始から約1ヵ月半ほど経過したところです。かなり褥創が小さくなってきて、改善しているのが判ります。

 

約2ヶ月経過したところで、ほぼ完全に上皮化しました。

 

全経過を通じて、私自身はインターネットおよびメールでのアドバイスをしただけで、基本的に全て飼い主の方が自分で自宅治療を継続し、見事に褥創を治した例です。
飼い主の方は、当院のホームページ、および「新しい創傷治療のホームページ」を読んで「湿潤治療」や「褥創のラップ療法」の治療原理をとても良く理解して下さり、自宅で肌理の細かい管理・介護の結果、きれいに治癒しました。治癒まで約2ヶ月ほどかかっています。2ヶ月と言うと「長い」と感じるかもしれませんが、褥創というのはもともと非常に治り難い傷であり、「寝たきりである」という褥創の最も大きな原因を取り除くことが出来ないため、治癒までにとても長い時間がかかります。人間の褥創でも、数ヶ月~年単位で時間がかかる場合も稀ではありません。ですから、2ヶ月で治ったと言うのは、ある意味では「驚異的に早い治癒」と考えることもできます。

もちろん一度治った褥創でも、油断していると再発することも珍しくありません。一度出来た、ということは、その場所は「褥創の出来やすい場所」と言う事なので、常に良く観察して早めに異常を見つけることが大切です。また、除圧に気を配ることと、スキンケアも予防のために重要です。

メール相談による自宅治療で、しかも「小脳腫瘍」という重病を抱えた状態でも、きちんと管理すればこんなにきれいに褥創が治るのだ、ということを、同じような苦労をしている飼い主の方たちにも知って欲しい、ということで、全経過の写真を送ってくださいました。

2017.11.01(水)

犬の爪の剥離はときおり遭遇する疾患である。爪切を怠って長いままの状態にしておいたり、あるいは散歩や屋外での運動の際などに引っ掛けて爪が「取れてしまう」ことがある。

左の写真はG.レトリバー(雌 10歳)の前肢の爪1本が「スッポリ」と取れてしまったところである。本来なら爪の角質に保護されている、血管や神経を含んだ軟部組織が露出して、真っ赤になっている。この部分に少しでも触れると、非常に強い痛みを生じる。

このようなときには、もちろん消毒などをしてはいけないが、水道水であまり熱心に洗っても痛みを加えるだけなので、ぬるま湯で軽く流すだけにして、ラテックスグローブにハイドロジェル材(出血のある場合にはアルギン酸)を少量充填して、そのまま肢にすっぽり被せて抜けないように固定する。これで乾燥を防いでやると、翌日には痛みが殆ど消失している。

 

翌日からは、患部に触れてもあまり痛がらなくなり、ほぼ普通に歩けるようになった。
ポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)で 指ごと挟むようにして、テーピングなどで固定した。

これを1~2日ごとに交換。

ハイドロサイトだとクッション性があるので、ぶつかったり当たったりしても痛みを生じない、と言う利点がある。

 

数日経過すると、爪が抜けて「真っ赤」だった部分の周囲をピン色の組織が覆うようになった。

この「薄ピンク色」の組織が、いわゆる「肉芽組織」なのか、あるいは爪の元となる上皮細胞なのか?不明である。

通常このような傷では、爪の剥がれた後の組織は「乾燥」して黒く壊死してしまい、干からびて「ミイラ状」になってしまう。その後から新たに爪が生えてくる、と言う経過を取るのが普通である。

ところが、「湿潤療法」で治療した場合には、「壊死」は起こらず、残存した組織が再び爪へと再生する。

 

ハイドロサイトによる被覆を終了し、指サックの先端にハイドロジェルを入れて患部の指を覆い、バンデージで抜けないように固定した。

「薄ピンク色」の組織は徐々に白っぽく、硬く変化してきた。

2~3週間程度で、ほぼ元通りの爪に戻った。

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