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2017.11.02(木)

手術の際には、血管を縛ったり、切開した組織や皮膚を縫合するために色々な種類の手術用「糸」を使用します。目的に合わせて、一番適切な糸を選択して使用するわけですが、実際には糸の使い方は獣医師や病院により異なります。もちろん「どのような場合にどのタイプの糸を使用するべきか」という原則はあるのですが、その常識は時代とともに変化します。
「たかが糸」と思われるかもしれませんが、手術に使用した糸の種類によっては術後の感染症、糸に対するアレルギー、異物反応による肉芽腫の形成、炎症、癒着、離開など様々なトラブルが発生する場合もあります。もちろん、たとえどのような糸を使用したとしても、生体にとって「糸」は結局のところ「異物」には違いありませんから、術後に起こるあらゆるトラブルを100%抑えることは実際にはできませんし、「糸」だけが手術の成否を分ける要因でもありません。しかし、「どの糸を使用するか」ということに、ちょっと気を使うだけで、これらのトラブルの何割かが解消されることも事実です。ここでは、一般的に手術に使用される「糸」の種類と、使用目的に応じた「糸」の使い分け、そして当院での(原則的な)「糸」の使用方法について、ごく簡単に紹介します。

 

《糸の種類》

 

◆「溶ける糸」と「溶けない糸」

手術後しばらく経って、生体に吸収されて無くなってしまうタイプの糸を「溶ける糸」=吸収糸と呼びます。「生体内の糸を分解して吸収する」というのは一種の免疫反応ですから、吸収糸を使用するとある程度の「組織反応」が見られます(組織反応があるからこそ糸が吸収されるのです)。通常この反応は軽度であり、組織内でゆっくりと進行するので、外からは判りません。
吸収糸にはカットガット*と言う「牛の腸」を原料とした天然素材の糸と、合成吸収糸とがあります。カットガット*は張力が弱く、組織内での張力の持続力が短く(早期に分解・吸収されるため)、組織反応が強く起こるため、特殊な用途以外ではあまり最近では使用されなくなりました。またカットガット*は1本ずつ滅菌されたパッケージに入っているのではなく、アルコールで満たされたカセットに入った糸をその都度必要な分だけ切って使うため、汚染される危険性も高く、したがって現在当院では使用しておりません。
合成吸収糸は、その素材の種類により多少の違いはありますが、一般的に張力が強く、組織内での張力の持続期間も数週間と長く、3ヶ月から半年くらいかけてゆっくりと吸収されます。カットガット*よりもしっかりと確実に縫合でき、組織反応も少ないため、一般的には合成吸収糸が使用されています。

これに対して、生体に吸収されないタイプの糸を「溶けない糸」=非吸収糸と呼びます。非吸収糸には「絹糸(けんし)」や「ナイロン糸」、その他の素材のものがあります。細いステンレスワイヤーなどを縫合に使用する場合もありますが、これも非吸収糸に含まれます。絹糸はその字のとおり、シルクから出来た天然素材の糸であり、生体にとっては異種蛋白なので比較的強い組織反応を示します。これに対してナイロンやポリプロピレン、ステンレスなどの合成非吸収糸は殆ど組織反応を示さないと言われています。しかし、経験的にはこれらの非吸収糸でも、異物反応を起こす個体が時として見られますが、絹糸と比較すればその危険性は非常に低いと考えられます。

 

*カットガットは2000年12月以降発売中止となりました。

 

 

◆「ブレード」と「モノフィラメント」

タコ糸や裁縫用の糸のように、細い繊維が何本も束になって1本の糸となっているタイプの糸を「より糸」=ブレードと呼びます。ブレードは術者にとって非常に扱い易く、しっかりと縫合・結紮が出来るという利点がありますが、細菌による汚染が生じやすく、特に絹糸は術後の縫合糸膿瘍の主な原因となっています。絹糸は、1本1本のシルク繊維が非常に細く、その繊維どうしの間隔はちょうど、「細菌」は入り込めても「白血球」は入り込めないサイズになっています。つまり、この中に細菌が入り込んでしまうと、生体の白血球は細菌を捕まえて食べることが出来ず、細菌にとっては格好の隠れ場所になってしまうのです。従って、絹糸による縫合糸膿瘍は「糸」そのものを取り除くまで、半永久的に繰り返されることになります。

 

これに対してモノフィラメントは、複数の糸を寄り合わせたものではなく、単一の「ツルッ」とした1本の糸で出来ています。つまりこの糸の中には「細菌が入り込む」スペースがありません。このため、細菌による汚染を起こす危険性が低く、汚染を伴う手術ではもちろんのこと、通常の手術でもできるだけモノフィラメントの縫合糸を使用することが推奨されます。

 

これらは何れも合成吸収糸。上の2つがモノフィラメントで、一番下のものがブレードタイプの吸収糸

こちらは非吸収糸。一番上がポリプロピレンの針付き縫合糸。真ん中がナイロン糸で、一番下が絹糸。

 

 

◆使用目的に応じた使い分け

糸の使い方も時代により変わります。昔は手術用の糸と言えば「絹糸」でした。絹糸はとても扱いやすく、丈夫であることから、血管の結紮や開腹したお腹を閉じる際の腹壁の縫合に使用されたりしていました。さすがに現在、皮膚を絹糸で縫うことはまずありませんが、腹壁を絹糸で縫合している病院はまだ時々見かけることがあります。以下に、縫合糸の「昔の常識」と「新しい常識」を箇条書きにしてご紹介します(個人の見解です)

 

「昔の常識」

・ 血管や管状の臓器の結紮には絹糸を使う(滑って抜けるといけないから?)。
・ 血管の結紮に吸収糸を使ってはいけない(早めに溶けると出血するから?)。
・腹壁の縫合には非吸収糸を使う(吸収糸は強度が弱いから?)。
・腹壁は 単純結節縫合する。その際、腹膜を同時に縫合することを忘れてはならない(学生の頃は『腹膜を絶対に拾うべし』と習いましたっけ)。
・皮下(脂肪)組織は吸収糸で縫合し、最後に皮膚をナイロン糸で縫合する。

 

「新しい常識」

・ 血管の結紮には合成吸収糸、非吸収糸の何れを使用しても構わない。しかし絹糸はできるだけ使用しないこと。
・腹壁の縫合は合成吸収糸、非吸収糸の何れを使用しても構わない。しかし絹糸は使わないこと。
・腹壁の縫合は単純結節縫合でも連続縫合でもどちらでも良い。
・腹壁を縫合するときには、腹膜を拾うべきではない。腹筋の筋膜をしっかり縫うことが重要である。
・皮下組織は吸収糸か非吸収糸で縫合する。できるだけブレードは使用しない。

 

内容が少々専門的になりますが、「単純結節縫合」とは、縫合糸を1回ずつ結んでは切る方法で、時間はかかりますがしっかりと縫合することができます(と考えられています)が、結び目が沢山できます。連続縫合は組織に連続的に針・糸を通す方法で、すばやく縫合することが出来ます。腸管や膀胱など液体が漏れては困る場合の組織の縫合には、密閉性の高い連続縫合を使用します(これも、昔は単純結節縫合とされていました)。
腹壁を縫合する際に、「腹膜を拾ってはいけない」というのは、獣医師でも驚かれる方が沢山いることと思われます。私自身も学生のときには「絶対に腹膜を拾うこと」と教えられましたし、恐らく現在も学校の授業ではこう教えられているのではないでしょうか?しかし現在では、腹膜を縫合すると術後の傷に痛みを生じること、腹膜炎の発生率が上昇すること、腹腔内臓器と腹壁の癒着が起こる確率が高いこと、などが判明しており、また腹膜の再生は非常に早く縫合の必要がないこと、縫合することで却って腹膜に余計な損傷を与え、治癒を阻害していることなどが指摘されており、閉腹の際には腹膜を拾わずに、腹筋の筋膜をきちんと縫合すること(縫合糸が腹腔内に出ないようにすること)が大切である、というのが新たな常識となっています。
皮下組織を吸収糸(または非吸収糸)で縫合するのは今も昔も同じですが、脂肪織をあまり「がっちり」深く縫合し過ぎると、脂肪の虚血性壊死を起こしたりすることがあります。皮下脂肪というよりも、真皮層をしっかり縫合することが大切です。

 

◆当院での「糸」の使い方

以上からも判るように、糸の使い方や縫合の仕方には時代により色んな常識があります。どの時期の「常識」を取り入れたかにより、術者によって多少の違いが出てくるのはある程度仕方当然のことです。また、自分では「古い方法」であることが判っていても、「今までこの方法で問題が起きたことが無い」と言う理由で、新たな方法に変える必要性を感じない、という場合もあるでしょう。確かに、医療材メーカーから「手術用絹糸」が売られていることからも、手術に絹糸を使用すること自体は「間違い」ではないのですが、生体に残る部分にはなるべく使用しないなど、使用方法には気を配る必要があると思われます。

 

当院では、

「縫合糸による汚染・感染を防ぐこと」
「縫合により不要な損傷を組織に与えないこと」
「縫合により組織の修復をできるだけ妨げないこと」
「生体内にできるだけ異物を残さないこと」

などを目的として、縫合糸の使用方法について、原則的に以下のように考えています。

 

・血管などの結紮には合成吸収糸、または非吸収性のモノフィラメントを使用する。
・原則的に絹糸は使用しない(腫瘍などの「取り除く部分」には使用することがあります)。
・腹壁は合成吸収糸による連続縫合 で、腹筋筋膜をしっかりと縫合する。

 

実際の手術では、その場その場で「最も適切」と思われる縫合糸や縫合方法を選択することになりますので、場合によっては必ずしも、この使用原則に従うことができないケースもあるかもしれません。しかしながら、通常の手術では殆ど全ての場合、この原則に従って縫合糸を選択しています。

2017.11.02(木)

「抗生物質」とは?

抗生物質という言葉は、皆さんも良く耳にされることと思いますが、実際にどんな薬のことを言うのか、ご存知でしょうか?「抗生物質」とは、読んで字のごとく「抗‐生物‐質」、つまり生物(主に細菌)に対抗するための薬のことで、種類により細菌を死滅させてしまうものや、増殖を止めるだけのものなどがあります。俗に「化膿止め」などと称して処方されることもありますが、体内や体表の細菌の繁殖を抑えたり、細菌自体を破壊したりして、感染から体を守るために投与される薬です。

 

手術時の「抗生物質投与」について

私達を取り巻く環境中には、眼に見えない細菌やカビが溢れています。私達人間を含めて、あらゆる動物の皮膚や腸の中にも「常在菌」と呼ばれる細菌が生活しています。手術の際に、全身麻酔をかけることにより体温や恒常性が低下して、抵抗力が低下すると、普段は何ら悪さを働かないこれらの細菌達が増殖し、手術部位 の感染(化膿)が起こる、と考えられています。これを防ぐため、手術の際には抗生物質を、予防的に投与することが推奨されて来ました。 しかしこの考え方は最近変わりつつあります。

 

「薬剤耐性菌」について

抗生物質には多くの種類があり、それぞれに作用のし方や「効く細菌の種類」が異なります。目的とする細菌の種類によって、使用する抗生物質の種類も少しづつ違うのです。ところが、今まである細菌に対し「効いた」はずの抗生物質が、次第に効かなくなってしまうことがあります。これは、細菌が、その抗生物質に対し、「抵抗力=耐性」を持ってしまったためです。このような細菌を、「薬剤耐性菌」と呼びます。「薬剤耐性菌」は、正常な免疫力をもったヒトや動物には殆ど無害ですが、老齢や病気、免疫抑制剤を投与している場合など、免疫が低下しているヒトや動物にとっては大きな脅威となります。特に人間の病院では「MRSA」の院内感染などが大きな問題となっています。

 

「耐性菌」を増やさないために

このため、「耐性菌」を増やさないことは、公衆衛生的にも非常に大切なことです。「耐性菌」を増やさないためには、「不必要な抗生物質の使用を避ける」ということが重要です。1999年に「アメリカ疾病予防局(CDC)」より出された「手術部位 感染の予防に関するガイドライン」では、「抗生物質は手術中適切な血中濃度を維持する様に投与し、術後に予防的投与を延長しないこと」としています。またこの報告では、抗生物質の「予防的投与」と術後の汚染による「感染予防」の間には関連性がない、ともしており、通常の手術では術後抗生物質を予防的に投与する必要がないことを説いています。また最近では「米国獣医学会」でも、不要な抗生剤の使用を避けるよう呼びかけています。
そもそも「抗生物質」は感染の「治療薬」であり、決して「予防薬」ではありません。しかしながら実際には「抗生物質を投与せずに感染が起きたらどうしよう」という不安感を払拭するだけの目的で、不必要な抗生物質の投与が頻繁に行われているのが現状です。つまり、人間が自らの手で薬剤耐性菌を作り出し、今度はその耐性菌に自分たちが苦しめられ、さらに強力な抗生物質を開発して乱用する、という悪循環に陥ってしまうのです。今回のCDCのガイドラインは、この悪循環に一定の歯止めをかけるのに役立つことと思われますが、私たち一人ひとりが意識して事態を改善して行こうとしない限りこの状況はなかなか変わらないでしょう。

 

当院での「手術の際の抗生物質投与」の方針

これら最近の動向を踏まえ、当院では、

 

1)術前および術中の適切な抗生物質の投与
2)清潔な手術操作
3)感染を起こし難い手術材料(縫合糸など)の使用
4)患者間感染の防止

 

などの徹底により不要な抗生物質の使用を最小限にするよう心掛けています。著しい汚染や感染を伴わない手術(例;不妊手術や去勢手術など)の際には、原則として退院時に抗生物質を処方しておりません。今まで「手術後は抜糸まで抗生物質を投与する」のが「常識」と考えていた方は、「本当に大丈夫?」と心配されるかもしれません。しかし、「常識」は時代と共に変わるものです。皆様のご理解とご協力を、宜しくお願いいたします。

 

▽補足と注意点

手術の性質によっては手術前日〜数日前から抗生物質の投与をお願いする場合があります。また、術前・術後の投与法に関しては、獣医師の指示に従ってください。このガイドラインは「予防的投与」に関するものであり、皮膚病やその他、感染症に対する「治療的投与」に於いてはこの限りではありません。

2017.11.02(木)

「創傷治療」の「傷を消毒してはいけない」にも書いた通り、「傷を消毒する」ことは医学的に無意味であるだけではなく、傷の治癒を遅らせ、患者に苦痛を与え、時としてアレルギーなどのショックを引き起こしたり、白血球やマクロファージなどの免疫細胞を死滅させることで却って感染を助長させる可能性もあるということが判っています。つまり「傷を消毒する」ということは、「治療」の名を借りた一種の傷害行為であると言うのが最近の考え方です。

 

 

しかしながら、人間の病院を含めて多くの病院ではいまだに「傷の消毒」が日常的に行われています。最新の医学的知見では「間違いである」ことが判明しているにも関わらず、何故いまだにこのような行為が行われているのでしょうか?

 

「過去100年以上続けられてきた常識的治療」を、いまさら覆すというのはなかなか難しいことなのかもしれません。実際には、多くの傷;特にかすり傷などの小さな傷は、たとえ消毒してもすぐに治ってしまいます。これは「消毒をして傷が治るのを邪魔したのにも関わらず、強い治癒力で傷が自ら修復した」と考えるのが正しいのですが、一般的には「きちんと消毒したから治った」と捉えられてしまいます。放っておいても勝手に治ってしまうような傷の場合は、少々消毒したくらいでは然程悪影響を受けずに治癒する能力を持っているのです(だからと言って消毒しても良い、という訳ではありませんが…)。

 

しかし中には、非常に治癒が悪く、なかなか治らない傷というのも存在します。治らない原因はそれぞれの傷により様々ですが、このような「治り難い」デリケートな傷を治療する場合には、絶対に消毒してはいけません。ただでさえ傷の治癒を邪魔する因子が幾つもあるのですから、さらに消毒で追い討ちをかけるようなことをすれば、傷は治らないばかりか却って大きく広がって余計に悪化してしまう場合もあります。

 

したがって、当院では「傷を消毒する」行為は一切行っておりません

 

また、「傷の治療」に関する相談や「治らない傷」の紹介なども、随時受け付けております。お電話かメールでお問い合わせください。

2017.11.02(木)

ここ数年、「海外に犬や猫などのペットを連れてゆきたい」という飼い主の方から相談を受けることが多くなってきました。短期間の海外旅行に連れて行く、と言うケースもあれば、長期の海外出張という場合もあります。ヨーロッパの主な国やアジアの先進諸国、オーストラリアやニュージーランドなどの多くの国では、海外から入国する犬や猫その他の動物に対してマイクロチップの装着を義務付けています。行き先によってはマイクロチップが必要ないという場合もありますが、2004年11月から日本の検疫制度が改正され、海外から犬や猫その他の動物を日本へ入国させる際には、マイクロチップを装着していないと180日(6ヶ月間)の係留が必要となってしまいます。従って帰国することを考えれば現実的には装着しておくべき、と言う事になります。

 

▽「マイクロチップ」ってなに?

マイクロチップとは直径約2㎜、長さ約1cmの小さなICチップで、一つ一つに異なるID番号が付されています。マイクロチップを動物の体内に装着することで、このID番号が個体の識別番号となります。リーダーと言う機器を使ってこのID番号を読み取ることで、世界中どこに行ってもその動物が「どこの誰か」を特定することが可能になります。国によっては、全ての飼育犬に対してマイクロチップの装着を義務付けているところもあります。
マイクロチップはちょっと太めの注射針のような器具で簡単に装着することが出来ます。犬や猫、フェレットなどの動物では、首の付け根~肩甲部の皮下に装着するのが普通です。麻酔は必要ありませんが、どうしても「痛そう、かわいそう」と言う場合には、避妊手術や去勢手術のときに同時に装着すると言うのもひとつの方法でしょう。

 

▽マイクロチップを装着するための器具

針の太い注射器のような器具で、マイクロチップを簡単に動物の皮下に埋め込むことができます。小型犬や猫などの場合には、必要に応じて局所麻酔を使用する場合もありますが、通常は麻酔は必要ありません。

 

▽「マイクロチップ」の必要性

①海外に犬や猫などの動物を連れてゆきたい

多くの国では現在、犬や猫その他の動物を他国から入国させる際にマイクロチップの装着を義務付けています。ヨーロッパのEU加盟国では、EUの国々を動物が自由に行き来できるように、「EUパスポート」と言う動物のパスポートを発行していますが、このEUパスポートを取得するためには、マイクロチップを装着してある必要があります。
また日本の検疫でも、入国の際にマイクロチップを装着していない動物は180日(6ヶ月)の係留が必要となるため、検疫を最短時間で通過するためには「マイクロチップの装着」が必須ということになります(半年間検疫所に預けてもいい、という方は別ですが・・・?)。
詳しくは《動物検疫のホームページ》参照

 

② 動物が迷子になったときのために

様々な理由により、犬や猫たちが迷子になってしまうことは決して珍しいことではありません。散歩中や旅行中に犬や猫が行方不明になってしまうこともあります。窓から猫が「ヒョイッ」と飛び出して何日も帰ってこないこともあります。「動物には帰巣本能があるので大丈夫」などと思われる方もいるかもしれませんが、実際には自力で家に帰って来られる動物はほんの数%に過ぎません。実際には多くの犬や猫たちが、迷子になったまま、帰ってくることが出来ないという場合が殆どです。特に震災などの災害時には多くの動物達が置き去りになったり迷子になったりします。たとえ首輪や鑑札が付いていたとしても、放浪生活をしているうちに取れてしまう可能性もあります。こうなってしまうと、飼い主のもとに帰ってくる可能性は殆ど無くなってしまいます。しかしマイクロチップを装着していれば個体識別が出来るため、かなり高い確率で飼い主の所に戻すことが出来ます。

 

③ 捨て犬・捨て猫を減らすことが出来る(かも知れない)

現在、日本では全ての飼い犬・飼い猫に対してマイクロチップの装着を義務付けている訳ではありません。従って、マイクロチップを装着していないから「捨て犬or捨て猫だ」と判断するわけにはいきません。現段階では、犬や猫を簡単に捨ててしまおうと考える「無責任」な人たちが、わざわざマイクロチップを装着しようと考える可能性は極めて低いため、今のままでは「捨て犬・捨て猫を減らす」と言う事には直接結び付かないかもしれません。しかし自治体によっては、特に猫に対してマイクロチップ装着を推進している地域もあります。猫は「飼い猫」でも野外で自由に生活している場合が多く、「野良猫」との区別が付かないため、きちんと飼い主を特定できる状態にすることで「飼い主」としての自覚を持ってもらい、「飼い猫」としてきちんと管理してもらうための「意識の向上」にも役立つと考えられます。

また沖縄では、捨てられて野生化した「野良猫」が天然記念物のヤンバルクイナを襲って問題になったため、猫の対するマイクロチップの装着を義務化して「捨て猫」を減らそうという取り組みをしている地区もあります。 こうした地道な行動が全国的にも広まれば、「野良犬・野良猫」として処分されてしまう動物達を減らすことにも繋がると考えられます。

 

④ 動物の盗難の防止・解決

悲しいことですが、ペットの犬や猫を「盗まれた」と言う話は、時々耳にします。一体何を目的にその様な酷いことをするのか、憤りを覚えるばかりですが、このような場合でも「マイクロチップ」を装着しておくことで、盗難にあった動物を取り戻すことが出来る可能性が高くなります。またマイクロチップを装着する飼い主が増えて、チップを装着することが一般的になってくれば、他人の飼っている動物を「盗む」という犯罪自体が減少する可能性は非常に高いでしょう。そのためには、「動物の飼い主」の間でマイクロチップが普及するのと同時に、「動物を飼っていない人たち」に対しても「マイクロチップの存在」を知ってもらう必要があるのかもしれません。

 

※上の図は「ライフチップバイオサーモ」の販売元であるDSファーマアニマルヘルス社のウェブサイトから拝借した画像です。現在当院では「ライフチップバイオサーモ」の取り扱いを休止しておりますが、マイクロチップの大きさや形、構造などはメーカーによりそれほど大きな違いはなく、またこの図はマイクロチップのイメージを理解するのに便利なので、引き続き掲載させて頂きます。

 

▽マイクロチップの装着法

一般にマイクロチップの装着に「毛刈りも麻酔も必要ない」と書かれていますが、当院では基本的に「局所麻酔」の使用をお勧めしております。上のイラストでも分かるように、マイクロチップ自体の直径が約2mmあります。注射針の内部にこれが入っていると言うことは、かなり太い針を皮膚にさすということになる訳です。特に猫や中型犬以下の犬、あるいは大型犬でも痛みに敏感な犬などでは、事前に局所麻酔で痛みを麻痺させておいてからチップを挿入する方が良いと考えています。
局所麻酔は、インスリン注射用の非常に細い針を使って注射しますので、これによる痛みは殆どありません。
チップ挿入部の毛を刈る必要があるかどうかに関してですが、基本的には刈らなくても大丈夫ではあります。しかしながら、比較的太い針を刺しますので、「傷の様子をよく観察できる」「万が一チップが抜けて脱落(この可能性は殆ど無いと言われてますが)した場合でも見つけやすい」などの理由から、出来れば挿入部周囲の毛を刈ることをお勧めします。毛を刈る範囲は約1cm四方で充分ですので、外見的には殆ど目立たない程度で済みます。

 

日本ではまだまだ「マイクロチップ」の認知度は地域によってかなりの差があり、一般的に普及しているとは言えない状況です。しかし海外ではかなり一般的になっている地域もあり、今後日本でも徐々に普及してくるものと思われます。いざと言うときに「マイクロチップさえ付けていれば・・・」などと後で悔やむことの無いように、マイクロチップの装着について検討してみても良いのではないでしょうか?

 

2011年9月末より当院では米国デストロン社製の「ライフチップ」および「ライフチップバイオサーモ」の使用を中止しております(使用中止の理由はDSファーマアニマルヘルス社のウェブサイトより「マイクロチップについて」のところをお読みください)。現在、当院で取り扱っているマイクロチップは米国AVID社製の「AVIDマイクロチップII」および、スイスDATAMARS社製の「アイディール」というマイクロチップです。
リーダー(読み取り器)はデストロン社製のものがそのまま問題なく使用できますので、当院ではこれを使用しております。

 

最近、ハワイでもISO規格のマイクロチップを受け入れているようなので、日本国内で流通しているマイクロチップを装着しても問題ないようです。しかしハワイではAVID社製のリーダーを持っている動物病院が多いようなので、AVIDのチップを装着して行く方が良いかも知れません。

2017.11.02(木)

実はノミの被害は前述したような「刺されることによるノミ皮膚炎」や「ノミアレルギー」、「条虫の媒介」に留まる訳ではありません。先日2005年6月19日)、アメリカのコロラド州立大学の内科学専門医であるDr.Lappinの講義を拝聴し、特に猫の寄生虫疾患を中心に「最新情報」を得る機会があったので、その内容のうち主に「ノミの被害」について、かいつまんでご紹介したいと思います。

 

 

▽ノミは危険な寄生虫!!

ノミに刺されると皮膚炎を引き起こしますし、子犬や子猫などに大量に寄生して吸血した場合には貧血が起きることもあります。しかしそれよりも大きな問題として、血液から感染する様々な病原体を媒介する「ベクター」となる、と言う点が挙げられます。ノミが媒介することが知られている猫の病気としては、以下のようなものがあります。

 

・ネコ引っかき病(バルトネラ;Bartonella henselae)
・マイコプラズマ症(Mycoplasma haemofelis, M. haemominutum)
・ネコリケッチア(発疹チフス)
・猫白血病ウイルス(FeLV)

 

このうち、猫引っかき病(バルトネラ症)とネコリケッチア(発疹チフス)人畜共通感染症つまりヒトにも感染する病気です。ヒトが猫引っかき病に感染すると、リンパ節が腫れて膿が出たり発熱したりと、様々な症状を引き起こします。特にHIV患者の方や臓器移植、アトピーなどで免疫抑制剤を使用している方などの場合には、症状が重篤化する可能性が高いので要注意です。バルトネラは猫だけではなく、犬にも感染していることがあります。発疹チフスも、発疹を伴う発熱や疼痛、重症の場合には神経症状が現れて昏睡状態になることもあると言う、非常に怖い病気です。
マイコプラズマ症は、少し前までは「ヘモバルトネラ症」と呼ばれていた、猫の赤血球に寄生して「猫伝染性貧血」を引き起こす病原体です。FeLVはご存知の通り、白血病症状やリンパ腫などの腫瘍性疾患を引き起こす、猫の伝染病です。マイコプラズマやFeLVはヒトには感染しませんが、猫に感染し発症すると命を落とす場合もある非常に怖い病気です。
バルトネラは、ノミの糞便中で9日間生存することが判っているそうです。猫が毛づくろいをしたりした際に、爪の間などに「ノミの糞」が入り込み、その爪で引っかかれることにより、傷口からバルトネラが入り込んでヒトに感染するのではないか、と考えられています。その他、ノミの糞が直接ヒトの傷口や粘膜などから入ることで感染する可能性もあるようです。またネコリケッチアは主に、口や鼻からノミの糞を吸い込むことで、ヒトに感染すると考えられています。

 

このように、ノミは人畜共通感染症を含む様々な病原体を媒介していることが知られています。猫自身をノミの被害から守るために「ノミの予防」をすることは当然のことですが、特に小さなお子さんがいる家庭や、高齢の方、免疫低下を伴うような病気を持った方などが一緒に生活している場合には特に、ノミやその他の寄生虫の予防・駆除をしっかりすることが、非常に重要です。きちんとノミのコントロールを実施することは、猫だけではなく一緒に生活するヒトの健康を守るためにも、絶対に必要なことなのです。

 

▽その他の人畜共通感染症

バルトネラやリケッチアの他にも、猫からヒトに感染する病気には様々なものがあります。主に猫の糞便が感染源となる人畜共通感染症を以下に挙げます。

 

・鉤虫症
・カンピロバクター症
・クリプトスポリジウム症
・ジアルジア症
・サルモネラ症
・猫回虫症
・トキソプラズマ症

 

これらの感染症の中には、下痢などの症状を引き起こして数日で自然に回復するようなものもあれば、回虫症のように「眼球」に迷入して失明を引き起こすような怖い病気も含まれます。健康なヒトにとってはそれ程大きな問題とはならなくても、何らかの原因で免疫の低下しているヒトに感染すると、極めて重症となる感染症もあります。これらの「糞便からうつる」感染症の中には、病原体が感染力を持つまでに数日かかるようなものもあるため、「トイレを毎日きれいに片付ける」と言うことは有効な予防手段となります。
これらの人畜共通感染症によるヒトおよび環境への被害を最小限に食い止めるため、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)およびCAPC(伴侶動物寄生虫協議会)では、以下のような駆虫プロトコールを推奨しています。

 

・子犬とその親犬は、生まれて2週、4週、6週および8週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・子猫とその親猫は、生まれて3週、5週、7週および9週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・成犬、成猫では生活環境により1年に2~4回糞便検査をし、必要な治療を行う。

 

そして特に外出する機会の多い犬や猫の場合は、1年に12回(毎月1回)駆虫を行うことが推奨されると言うことです。

 

▽乳幼児や病人のいる家庭では動物を飼わないほうが良いのか?

これだけ怖い「人畜共通感染症」があるのですから、乳幼児や高齢者、HIVその他の免疫低下状態の方のいる家庭では犬や猫などの動物を飼うべきではないのでしょうか?新聞やヒトの医療関連のサイトなどでは、このような内容の記述を眼にすることがあります。しかし、アメリカのCDCでは「HIV感染者のための、ペットからの感染を防ぐための手引き」と言うものを出しており、このガイドラインに従って犬・猫を管理すれば「HIV患者でもペットを飼うことをあきらめる必要はない」と言っています。ですから、きちんと飼育することができれば、小さな子供や寝たきりのお年寄りのいる家庭でも、飼育をあきらめたり放棄したりする必要は全くないのです。「下痢や皮膚病などの症状が無く健康で、寄生虫の予防とワクチン接種をしっかりしてある犬・猫は、ヒトに病気を移すリスクは殆どない」と言われています。自分自身や子供の身を守るため、そしてヒトと動物がいつまでも健康に幸福に共存して行くために、定期的な駆虫とワクチン接種は必要不可欠という訳です。

ここで何故「人畜共通感染症を防ぐために猫のワクチン摂取が必要なのだろう?」と思われた方もいるかもしれません。確かに猫のワクチンの対象となっている病気(FVR, FCV,FPV+FeLV)はヒトにうつる病気ではありません。しかし、これらの「猫特有の」感染症にかかっている猫は、その他の病原体の感染に対しても非常に弱く、そのためヒトに対して様々な感染症をもたらすリスクが高くなる、というのが「ワクチン接種が不可欠」である理由です。

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