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2017.11.02(木)

■「認知障害症候群(認知症)」とは?

獣医学の発展や食餌・予防などの飼育状況の改善などにより、犬や猫などの飼育動物の寿命は一昔前に比較して格段に長くなっています。これに伴い、様々な成人病や腫瘍(癌)などの老齢性疾患の発生が増えて来ていますが、その中でも最近特に問題になっているのが、「認知障害症候群」です。認知障害症候群は、英語ではCognitive Dysfunction Syndromeと言い、一般的にCDSと略されます。
人間の認知症では、脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症が最も一般的です。犬のCDSとヒトのアルツハイマー型認知症は全く「同じもの」ではありませんが、ヒトのアルツハイマーの場合と同様、脳にβ―アミロイド(Aβ)と言う蛋白質が蓄積して「老人斑」を形成する、と言う病理学的な共通点が見られます。この蛋白質は加齢に伴って、神経ニューロンの内部および周囲に沈着して神経線維の刺激伝達を障害し、脳の機能を低下させ、様々な症状を引き起こすことが判っています。脳のどの場所に、どのくらいの範囲でβ―アミロイドが蓄積しているかと言うことは、主にどんな症状が強く出るのかと言うことと深い関係があります。
CDSは犬や猫など様々な動物で見られますが、特に柴犬や日本犬系の雑種などで、その発生率が高いと言われています。「日本犬やその雑種はそれだけ長生きするから」と言うのも理由のひとつかもしれませんが、「認知症を示す日本犬では血液中の不飽和脂肪酸の濃度が著しく低い」という報告もあり、栄養面や飼育環境、遺伝的要素など様々な原因が「加齢」と複雑に絡み合って、CDSを引き起こしている可能性もあります。

 

■ CDSの症状

CDSの主な症状としては、以下のようなものを挙げることが出来ます。

・見当識障害(周囲の環境、人、場所に対する認識の低下)
・飼い主や他の動物(同居のペットなど)に対する反応の変化
・昼夜の逆転(昼間寝て夜は起きている)
・室内や不適切な場所での排泄
・行動の変化(ある行動の増加・低下、ずっと同じ行動を続ける、など)
・興奮や不安行動の増強
・刺激に対する反応の変化(増強あるいは減退)
・食べ物に対する興味の変化(増強あるいは減退)
・以前学習した行動が出来なくなる(特に使役犬で顕著)

 

これらの症状の中で、最も問題となることが多いのが、「昼夜の転倒」による「夜鳴き」ではないでしょうか。昼間はずっと寝てばかりいるのに、家族が寝静まる頃になると起きだして、徘徊したり大きな声で一晩中ほえ続けたりします。認知症状による夜鳴きは、非常に大きな声で、且つ単調にほぼ同じ間隔で鳴き続けるのが特徴です。家族の方々も睡眠不足にりますし、また「隣近所に迷惑を掛けてしまうのではないか」という不安で憔悴してしまい、相談を受けるケースもよくあります。
また、長年家族の一員として可愛がってきた動物が、飼い主である自分自身を認識できないのではないか?と感じたとき、多くの方は非常に強いショックを受けるものです。
これらの行動は、犬では顕著に見られますが、猫の場合は『寝ている時間が長くなる』とか『トイレの手前で排泄してしまう』というような、どちらかと言うと控えめな症状として現れることが多いようです。

 

■ CDSの診断方法

CDSは一般的に、犬では11歳以降に発症し、徐々に進行すると考えられています。治療せずに放置した場合、症状が明らかになってからの寿命は約1~2年だと言われています。現在のところ、血液検査やその他の臨床検査では、CDSを明確に診断する方法はありません。したがって、以下のような「チェック項目」を設け、飼い主の方に「当てはまる項目があるかどうか」を回答してもらう、と言うことでCDSを判断する方法が広く受け入れられています。

 

《チェック項目》

①夜中に意味も無く単調な声で鳴き出し、止めても鳴きやまない。
②歩行は前にのみとぼとぼと歩き、円を描くように歩く(旋回運動)
③狭いところに入りたがり、自分で後退できなくて鳴く
④飼い主も、自分の名前を呼ばれても判らなくなり、何事にも無反応
⑤よく寝て、よく食べて、下痢もせず、痩せてくる

 

高齢犬で、以上の5項目のうち1つでも当てはまるものがあれば、CDSの可能性があると判断されます。これらの症状はもちろん、CDS以外の脳神経疾患でも見られる可能性がありますから、年齢やその他の神経症状がないかどうかなどをよく吟味し、CDS以外の病気を除外する必要があります。

 

■ CDSの治療・対処方法

一昔前までは、「ある程度歳を取ったら認知症を発症するのは仕方が無いこと」と言う認識が一般的でした。これは一般の飼い主だけではなく、多くの獣医師もまた、以前はこのような認識を持っていました。しかしながら、人間の場合も全てのお年寄りが必ずしも「認知症」になる訳ではないのと同様に、動物の場合も全ての高齢犬で「認知症」が見られる訳ではないことから、CDSは必ずしも避けられない「運命」ではなく、現在ではある程度の予防や治療が可能な「病気」である、という捉え方をするのが一般的になってきました。
前述のように、「認知症を示す犬の血液中の脂肪酸の濃度が低い」という報告もあることから、CDSの予防および治療として、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などの不飽和脂肪酸を給与することが、ある程度有効であると考えられています。また、「サウスアフリカン茶」というお茶の一種を与えることで、「夜鳴き」の症状が改善した、と言う報告もあるようです。脳の機能を低下させるような神経細胞の障害は、活性酸素などのフリーラジカルの作用を強く受けるため、抗酸化作用のある物質を投与することもCDSの予防につながると考えられます。動物用に、抗酸化物質を含んだ補助食品などもありますし、CDSの予防・症状改善用に成分を調合された処方食もありますので、高齢の動物にはこのような食品を与えるのも良いでしょう。
アメリカではヒトのパーキンソン病の治療薬と同じ薬剤が、犬のCDSの治療薬として認可されています。またヨーロッパなどでは、脳血管の循環を改善する薬や、抗血栓作用のある薬などが、犬のCDSの治療薬として認可されているようです。また、CDSそのものを改善するのではなく、「夜鳴き」や「昼夜逆転」などの特定の症状を「矯正」したい、という場合には鎮静剤や睡眠薬などを用いる場合もありますが、これらの薬剤は結果的にはCDSの進行を早める可能性があると思われます。
CDSの治療は「こうすれば必ず良くなる」というものではありません。軽度のCDSであれば、無理に薬を飲ませたり食事を処方食に限定するのは可哀そうだ、という考え方もあるでしょう。また幾つか見られる症状のうち、どの症状が一番「問題」とされるのかは、飼育状況によっても変わってきます。どのような治療を希望するのかを良く考え、掛かりつけの獣医さんと相談して治療方針を決めるのがよいでしょう。

 

■ CDSの動物とどう付き合ってゆくか

ある調査では、7歳以上の犬を飼っている150人の飼い主にアンケート調査をしたところ、48%の人が、上に挙げた「CDSの症状」のうち少なくとも1つ以上が見られる、と答えたそうです。しかしながら、これを「主訴」として動物病院を受診したのは、そのうちの17%だけだったということです。恐らく、「高齢だから仕方が無い」と考えて、病院に連れて行かないという方が殆どなのではないかと思われます。しかし、CDSは治療が可能な「病気」です。もちろん治療効果には個体差がありますし、18歳を越えるような非常に高齢な動物の場合にはあまり効果を期待することができないかもしれません。しかし早期から治療を開始すれば、CDSの進行を遅らせることが可能な場合もありますし、夜鳴きや徘徊などの「困った」行動に悩まされる機会が減る可能性も充分にあると思われます。
「高齢の日本犬にCDSが多い」と報告されているように、品種によってもその発生率は違いますが、飼育状況や生活環境も大きく影響していると考えられます。室内飼育の犬よりも外飼いの犬のほうがCDSの発生が多いという報告もあります。外飼いの犬のほうが人間とのコミュニケーションの機会が少なく、脳に対する刺激が少ないためとも言われています。「散歩をして餌を与えたら放ったらかし」と言うような刺激の無い生活は、CDSを進行させる可能性があります。
普段からなるべくよく話しかけ、コミュニケーションを取るように心掛けることが大切です。「待て」や「座れ」などのしつけや訓練を維持すること、うまく出来たときは褒めて、メンタルな面でも刺激を与えることなどが、CDSの進行を防ぐ上でとても大切です。それでもCDSの症状が出てきてしまったときは…そのときはあまり無理なことはせず、安らかに余生を過ごさせてあげるようにすべきでしょう。

2017.11.02(木)

◆「褥創」の管理方法

①基礎疾患の治療と栄養管理

糖尿病や腎不全などの基礎疾患がある場合には可能な限りこれらの治療を並行して行います。栄養状態の悪化は褥創の悪化、治癒遅延に直結します。バランスのとれた消化の良い食餌を与え、適切な栄養管理をすることが大切です。

 

②圧迫を和らげる(除圧)

ヒトの場合にはウォーターベッドや体圧切替用エアマットレスなどの介護用高機能ベッドを利用することが出来ますが、動物ではこのような設備を利用することは非現実的です。

 

 

*介護用マット(お勧め)

①ドッグケアマット(ケアプロダクツ:http://www.care-products.jp
②ホームナース(田村駒株式会社:http://petsuki.com/homenurse/
③ペット専用介護マット(ユニ・チャーム ペットPro:http://pet.unicharm.co.jp/pro/

 

最近は動物用に「低反発マット」が売られているので、これを利用すると非常に便利です。低反発マットは充分に厚みのあるものを選びます。「すべり難い」ようになっているマットは、「摩擦がある」と言う事ですから、褥創対策にはあまり向いていない可能性があります。「すべり難い」タイプのマットを使用する場合には、滑りの良いシートを敷いて摩擦を軽減させてやると良いでしょう。

 

摩擦はまた別の問題を引き起こします。動物の皮膚はヒトに比べて薄く非常に伸びやすいため、体の下側になった方の皮膚が敷物との摩擦によって引っ張られたり捻れたりし易くなっています。この状態の皮膚に、更に上からの圧力が加わると、極めて容易に血行障害を起こします。ですから動物を横に寝かせた後には必ず体の下に手を入れて、捩れた皮膚を元の自然な状態に戻すように心掛けることが重要です。

 

寝たきりのヒトに於いて、褥創の出来やすい部位のひとつに「かかと」があります。「ヒトのかかと」の褥創を例にとって、正しい除圧と間違った除圧について少々説明してみます。
傷を保護する目的で、厚みのある「パッド」などを褥創に直接あててしまうと、却って圧迫が生じるため褥創は深くなります(下図;「間違い①」)。これを防ごうとして、少しずらした位置にパッドを当てて患部を浮かせようとすると、新たな褥創を作り出してしまいます(下図;「間違い②」)。正しい除圧は、下図の「正しい除圧」でも解るように、「点」ではなく「面」全体で行うようにします。

 

 

また、ドーナツのような形をした、真ん中に「穴」の開いたパッド(円座)が「褥創治療法」に市販されています(右下写真)。 教科書にも、褥創に対してこのタイプの「褥創パッド」を使用することが書かれていますが、「ドーナツ型パッド(円座)」は上図の②と同様に、周囲の血行を遮断して、却って局所に圧力を集中するため褥創が悪化すると考えられるようになって来たため、人間の褥創治療では現在殆ど使用されていません。

 

 

③体位の変換

人間の場合は、ずっと同じ姿勢で寝ていると同じ部分が圧迫され続けるため、2時間ごとに体位を変換して同じ場所に褥創が出来ないように予防するのが一応「正しい」と考えられています。しかし、最近ではウォーターベッドや高機能エアマットなど、除圧のための機器が改良され、体位変換の必要性は低くなっているようです。また体位を変換することで新たに褥創を作ってしまう可能性も指摘されており、必ずしも「体位変換」が必要なのかどうか、実際にはまだ良く判っていない部分もあります。特に動物の場合は、体位を変換しても、自分で好きな体位に転がってしまうことも多く、個体によって「右下が好き」「左下が好き」という好き嫌いがあることも多いので、エアマットや低反発マットなどでうまく除圧が出来ている場合には敢えて頻回の体位変換は必要ないのかもしれません。

 

④周囲の毛を刈る

褥創とその周囲を清潔に保つために、バリカンを使って広めに毛を刈っておくことが重要です。毛が「クッション」の役割しているように思われるかもしれませんが、実際には褥創の中に入り込んで「異物」となったり、浸出液や壊死組織がこびりついて汚くなったり、汚染や感染の原因となることも珍しくありません。また褥創を洗ったり、ラップや吸水シート(下記参照)などを褥創に固定する際にも、毛を刈っておくと非常に処置がし易くなります。したがって、褥創の周りの毛は常に短く刈っておくことをお勧めします。

 

⑤褥創の洗浄方法

褥創は出来れば毎日洗浄します。お尻の近くなどで尿や便が付きやすい場所にある場合には、排尿・排便のたびに洗う必要がある場合もあります。洗浄は、体の小さな動物ならお風呂場へ運んでシャワーで洗うことも簡単に出来ますが、中型犬くらいになるとそれもなかなか大変です。特に「寝たきり」の状態の場合には、洗ったり乾かしたりするのがとても難しくなります。そこで、100円ショップなどで売られているプラスチックのスプレー瓶(噴霧器)を使用して、ぬるま湯で洗うのが便利です。「傷」は乾燥したり壊死組織が多量に存在すると、痛みを生じます。しかし湿潤環境を維持して「肉芽組織」で覆われている限り、ぬるま湯で洗浄しても痛みを生じることは殆どありません(但し冷たい水で洗うのは、刺激にもなりますし、局所の温度が低下して血行が悪くなる原因にもなりますので、避けた方がよいでしょう)。
まず、周囲の皮膚の汚れをよく落とします。ぬるま湯で汚れをふやかしながら、ガーゼなどで優しく拭うようにして洗うようにしてください。褥創の内部は、特にやさしく洗うようにします。あまり勢いよくスプレーしないようにしてください。褥創内部は、決してゴシゴシ擦ったりして洗ってはいけません。また当然のことながら、消毒はしてはいけません
周囲の皮膚の汚れがどうしてもなかなか取れない場合には、低刺激性のシャンプーなどを使用しても構いませんが、シャンプーに含まれている界面活性剤にも細胞障害性がありますので、なるべく褥創内には入らないように注意し、洗浄後は充分洗い流す必要があります。

 

⑥壊死組織や感染がある場合

このような場合はなるべく自宅で治療せずに、「創傷治療」に詳しい病院できちんと治療してもらう方が安全です。治療の基本は「感染創」の治療と同様ですが、褥創の場合にはwet to wet dressing*のように「ガーゼやドレッシング材を創傷内に詰め込む方法」は取るべきではありません。壊死組織がある場合には外科的にデブリードマンしますが、出血するほどしっかりとする必要はありません。ある程度でデブリードマンができたら、後は毎日少しずつ融解させる方法をとりながら、壊死組織を段階的に取り除いてゆきます。感染がある場合には抗生物質の全身投与を行います。抗生物質は、血行の悪くなった場所や壊死した組織には到達しませんが、全身性の感染・敗血症を防ぐために、褥創の感染徴候が無くなるまでは投与する必要があります。

 

⑦褥創のドレッシング方法

褥創に対するドレッシング法として最も便利なのは、 「ラップ療法=開放性ウェットドレッシング法」です。これはサランラップやクレラップなどの「食品包装用」のラップを使用する方法です。ラップは厚みが無いため、褥創を悪化させることがありません。褥創の大きさに対し、ラップは大きめに切って直接創面にあてます。ラップの周囲を粘着テープなどで皮膚に固定します。このとき、毛が生えたままだとテープによる固定が困難になります。
ラップには吸水性が無いため、浸出液がはみ出して来て濡れてしまいます。そのため、ラップの上から、ラップよりも一回り大きい「ペットシーツ」などをあてて浸出液を吸い取る必要があります。部位によっては紙オムツを利用することも可能です。
ラップがどうしても使い難いとき(テープで固定できない、すぐにずれてしまう、など)は 、オムツやペットシーツに荷物梱包用の業務用テープ(ガムテープの透明なやつです)を直接貼り付けて、その部分を創面にあてるようにして使用します。要するに、オムツやシーツのザラザラした面が直接創面に当たらないようにしてあげればよいのです。

 

「ラップ」による褥創の「開放性ウェットドレッシング療法」の理論を示した模式図。
「褥創治療の常識・非常識」(鳥谷部俊一・著 三輪書店)より引用しました。

 

▼褥創に便利な自家製ドレッシング材の作り方はこちらで紹介しております。ご参考にしてください。
「自家製ドレッシング材の作り方」

 

⑧その他、注意点など

壊死組織が残っている場合でも、上記の「ラップ療法」で被覆している間に徐々に壊死組織が融解して、健康な肉芽組織が増殖してきます。浸出液が多めのときは、ラップに小さな穴を複数開けたり、水切り用の穴が開いた「穴あきビニール」などを使用してもよいでしょう。創面が乾いている場合には、白色ワセリンなどを薄く塗ってからラップをするとよいでしょう。ラップやオムツなどを固定する上で注意すべきことは、テープや包帯をきつく巻きすぎて血行を阻害したり、更なる圧迫を作って新たな褥創を作り出してはならない、ということです。
褥創は、そもそも「寝たきり」になっていること自体が原因なので、その原因を除去することが出来ない以上、完全な「治癒」が見込めない場合も多々あります。しかしその様な場合でも、感染を防ぎ、褥創の更なる拡大を防ぐために適切な処置を継続することはとても重要です。
人間では褥創を外科的に手術で治す治療法も行われています。しかし、手術による方法は一時的には治ったように見えますが、原因が除去されていないために、すぐにまた同じ部位に褥創が再発します。そのたびにまた全身麻酔をかけて手術をする、と言うのは決して良い方法とは考えられません。これは動物でも同様で、褥創を手術で治す方法はお勧めではありません。

 

・ラップを固定するのはどんなタイプのテープが適切なのか?
・ラップは動物の体に貼り付けるのではなく、ペットシーツやオムツに貼り付けた方が良いのではないか?

・ペットシーツやオムツを動物の体に固定するのはどんな方法が良いのか?粘着テープでよいのか?幅の広い柔らかい包帯を軽めに巻いて固定するのが良いのか?あるいはネットやストッキングなどを利用するのはどうなのか?
・体位変換はすべきか?不要か?必要だとすれば、どのくらいの間隔ですべきか?
・海水浴用のエアマット以外に、「使える」除圧器具にはどんなものがあるか?

 

 以上のような点に関しては、それぞれのケースにより「適した方法」が違ってくると思われます。今後様々な意見を取り入れながら、何が「最良の方法」なのか、考え続けてゆきたいと思います。

 

*wet to wet dressing;感染や壊死組織が残る創傷内に、生理食塩水で浸したガーゼを軽く詰めて、さらにその上から濡れたガーゼ(または防水ドレープやラップを使用する場合もある)で全体を覆って、乾燥を防ぎつつ、ドレナージを行うドレッシング法。生食ガーゼは1日数回交換する必要がある。交換の際にガーゼに壊死組織が付着して取り除かれる。つまりこの方法は、デブリードマンを目的としたドレッシング法である。

 

2017.11.02(木)

▽「熱射病」その予防と応急処置

夏場に頻繁に発生する救急疾患のひとつに、「熱射病」があります。熱射病は、日中の炎天下に長時間散歩や運動をさせたり、高温の閉め切った室内で留守番をさせたり、あるいは車の中に置き去りにしたり、と言った場合に多く発生が見られます。特に夏休みなどの行楽シーズンには、旅行先でこのような事態に遭遇する可能性もありますので、いざと言うときに慌てず適切な応急処置ができるように、ある程度の知識を持っておくことはとても大切なことです。
万が一、熱射病になってしまった場合でも、早い段階で適切に処置をすることで、重症になるのを防ぐことができます。しかし高体温の状態のまま長時間経過してしまった場合には、重症となり命を落とすことも稀ではありません。
大抵のケースでは、熱射病はその発生を予防することが可能なことが多く、従って熱射病は「なってから治療する」よりも「ならないように予防する」ことが重要である、と言うことが出来ます。

 

▽「熱射病」の症状

「熱射病」はその名の通り、体温が異常に上昇してしまうことで引き起こされる病気です。正常な犬や猫の体温はおよそ38.5度くらいですが、熱射病になると40~43度くらいにまで上昇します。熱射病の動物は呼吸が速くなり、口を開けて舌をダラッと出した状態で呼吸する「開口呼吸」という状態が見られます。また涎が大量に出ることもあります。中程度の熱射病では、動物はぐったりして、立ち上がったり歩いたり出来ないようになります。そしてこのような状態が長引くと、脱水が進行してショック状態となり、痙攣や発作などの神経症状を起して、場合によっては命を落としてしまうこともあります。
「日射病」というのは、熱射病のひとつですが、特に直射日光に曝された場合に起こるものを指します。日射病では、全身の体温の上昇と共に、直射日光により頭部の表面温度が異常に上昇することで、脳の浮腫(水ぶくれの様に腫れてしまうこと)が引き起こされるので、痙攣などの神経症状が比較的頻繁に発生します。
病態が進行して「ショック状態」になってしまうと、それまで激しかった呼吸が弱々しくなり、止まってしまうこともあります。庭先や車内などでぐったりしている状態の犬を発見し、その原因として熱射病が強く疑われる場合に、もしも呼吸が弱い、あるいは殆ど停止しているようなときは、非常に危険な状態であると判断されます。このような場合には、以下に説明するような処置を迅速に実施すると共に、直ぐに近くの動物病院で診察してもらう必要があります。

 

▽「熱射病」の応急処置

ここで説明するのは、「熱射病」が強く疑われる場合に行うべき「応急処置」です。応急処置は、あくまで病院に連れて行くまでの緊急的な処置であり、「これを行えば病院に連れていく必要がない」、ということでは決してありません。処置によりある程度状態が落ち着いたとしても、他に異常がないかどうかを調べるため、病院できちんと診察を受けることをお勧めします。
熱射病の動物に対してまず一番最初にすべきことは、体温を下げることです。人間の熱射病では、「体温が正常になるまでに要した時間が長いほど死亡率が増加した」という報告があります。つまり、できる限り早く体温を下げる処置を開始する必要があるということです。まず動物を涼しい場所に移動させます。体温を下げる処置として一番手っ取り早いのは、動物の体にホースで直接水をかける、あるいは全身を水に浸けてしまう事です。このとき注意しなければならないのは、決して氷水やあまりに冷たすぎる水を使用してはいけない、と言うことです。氷水や冷水を使用すると、体の表面の血管が収縮することで、却って体の奥に熱が篭ってしまい、結果として体温の下降を妨げることになるからです。自分の手で触って、ちょっとぬるいくらい(17~20度位)が丁度良いでしょう。
その他、水を体の表面にスプレーする、濡れタオルをかける、などの処置を行うことが出来ます。病院に到着するまでの車内では、このような処置を継続することが重要です。このとき同時に、うちわや冷風ドライヤーで水分を蒸発させながら、蒸発したらまた濡らすことを繰り返すと、蒸散により熱が奪われるので、効率良く体温が下降するのを助けます。
濡れタオルなどで体を冷やすときは、体全体を冷やすことはもちろん重要ですが、特に脇の下や内股、首の周りなどの「太い血管」の走行している場所を重点的に冷やすと効率的です。人間ではよく氷嚢や「ゼリーシート」などで額を冷やすことがありますが、額には太い血管はありませんので、この方法は実際には有効ではありません(但し「気持ちが良い」と言う意味では無駄ではないかもしれません)。

 

あまり熱心に冷やしすぎて、体温が下がり過ぎてしまうことがあります。特に猫や小型犬では、このような事故が起こりやすいので、冷やし過ぎないように注意が必要です。出来れば直腸から体温を計って、39度前後になったら一旦冷却処置を中止するのが安全な方法です。
熱射病による「高体温」は、炎症や感染症による「発熱」とは異なりますので、「解熱剤」は使用しても全く意味がありません。却って消化管潰瘍や腎不全などの副作用が出てしまうこともありますし、そもそも獣医師の指示を受けないでこのような薬剤を使用することは非常に危険ですから、このようなことは絶対にしないで下さい。

 

▽「熱射病」にしないための予防

とにかく「熱射病」を引き起こすような環境に、動物を置かないことが基本です。日陰の無い庭に放して(あるいは繋いで)置かないこと、(絶対に!)車内に置き去りにしないこと、閉め切った室内で留守番させないこと(窓を開けるなどして換気を良くする、あるいは暑くなる時間帯にはクーラーが点くようにタイマー予約をしておくこと)などが大切です。
肥満の犬、ブルドッグやパグ、シーズ-などの「短頭犬種」、高齢の動物、心臓や呼吸器系に疾患を持っている動物は「熱射病」の発生リスクが高いので、特に注意が必要です。また、被毛の密な北方原産の犬種なども、暑さには弱いので、特に夏場は注意深いケアが必要になります。
以上の点に注意すれば、殆どの場合熱射病を防ぐことは可能ですので、普段から気をつけて、熱射病から動物達を守り、暑い夏を乗り切りましょう。

2017.11.02(木)

▽術前検査の必要性

手術をするためには、全身麻酔をかけなければなりません。全身麻酔の安全性は、獣医麻酔学の発達と共に年々向上しています。しかし、腎臓や肝臓、あるいは心臓などに問題があると、全身麻酔により様々な障害が発生する危険性が高くなります。
手術の前に血液検査をはじめとする幾つかの検査を受けることにより、隠れた異常を見つけることが可能な場合があります。つまり、術前検査を行うことで全身麻酔のリスクをある程度予測することが出来るのです。通常、術前(麻酔前)に必要となる検査には「身体検査」と「血液検査」がありますが、動物の状態や年齢、実施する手術・処置の内容、基礎疾患の有無などにより、検査の内容は異なりますので、獣医師よりその都度ご提案をさせて頂きます。

 

術前の身体検査で何らかの異常が見られた場合や、血液検査で異常な項目が判明した場合には、結果に応じて追加の検査が必要になることもあります。例えば、聴診で心臓に雑音が聴取された場合には、心臓の検査(レントゲン・エコー)が必要になります。また血液検査の結果、「肝臓の数値」に異常が見られた場合には、肝臓の超音波検査や肝機能検査、血液凝固系の検査などが必要になる場合があります。

 

猫の場合にはFIV(猫エイズ)やFeLV(猫白血病ウイルス)、FIP(猫伝染性腹膜炎)などのウイルス感染が、麻酔のリスク上昇に関連しているという意見もあります。これらのウイルスは発症せずに「潜伏感染」していることが多く、麻酔をかけて手術をすることで発症する可能性もあります。これらのウイルス検査は、通常の術前検査には含まれていませんが、リスクが高いと思われる場合や特にご要望がある場合には実施することが出来ますので、お申し出ください。

 

いずれの検査も、麻酔や手術を安全に行うために必要な検査です。但し、これらの検査を行うことで「隠れている全ての異常を検出」出来るという訳ではありません。残念ながら一般的な検査では見つけることが困難な異常/病気もあります。また麻酔をかける全ての動物に対して超音波やレントゲンその他諸々の(必要性があまり高くないと思われる)検査を毎回実施するのはあまり現実的ではありません。もちろん、全ての異常を見つけることが出来ないからと言って「術前検査が無駄」という訳ではありません。術前検査の目的は「麻酔がかけられるかどうか?」という単純な線引きをすることではなく、麻酔をかけるにあたって重大なリスクとなる大きな異常/疾患が無いか、あるとすればその程度はどのくらいか、麻酔を掛ける前に治療や対処が必要か、どのような点に注意して麻酔をかけるべきか、などの情報を得ることで、可能な限り麻酔〜手術のリスクを減らすことにあるのです。

 

▽手術前日・および当日の注意

麻酔をかけると全身の反射機能が低下します。もし、胃に食べ物が入ったままの状態で麻酔をかけると、麻酔中〜覚め際に嘔吐することがあり、吐いたものが気管に詰まって、窒息や術後の肺炎・食道炎の原因になることがあります。したがって、手術当日の朝食は必ず抜いてください。ただし、お水は特に制限する必要はありません。前日の夕食は通常通りに与えてかまいません。但し夜の8時〜9時くらいまでに食べ終わるようにして、それ以降は翌朝まで水以外のものは与えないで下さい。

当日は、避妊・去勢手術であれば10時半までに病院にお越し下さい。それ以外の手術に関しては、個々の状態に応じてこちらで来院時間を指示させていただきます。

 

消化管の手術を行う場合や、消化器系の症状が見られる場合には、術前の食餌などに関して個別に注意事項を説明しますので、獣医師の指示を良く守ってください。

2017.11.02(木)

様々な怪我や病気、手術に伴って生じる「痛み」を管理することを「ペインコントロール」と言います。痛みをコントロールすることは、病気や怪我の根本的な治療にはなりません。しかし痛みを上手にコントロールすることで、痛みの原因となっている病気や怪我の治癒がスムーズになったり、治療中の患者のQOL(Quality of Life;生活の質)が改善されることが判っています。

 

ヒトの医学では、もう十数年前から癌などによるターミナルケア(終末期医療)の中でのペインコントロールの重要性が認識され、現在ではモルヒネなどの鎮痛剤を使用したペインコントロールがかなり一般的になって来ましたが、それ以前は「治療のためには患者は少々の痛みを我慢するのが当たり前」という考え方が一般的でした。

 

これは動物でもほぼ同じ状況で、昔は「動物はヒトに比べて痛みを感じない」などと考える人達も沢山いましたし、現在でも「手術後に痛みを抑えない方が、動物が動かないので治癒が早い」などと言う考え方をしている人達もいます。しかしこれは明らかな間違いで、現在では(少なくとも犬や猫、牛や馬などの哺乳類に関しては)動物もヒトと同様に痛みを感じていると言うのが一般的な見解となっています。また、手術の後などには、術前から鎮痛剤などで適切なペインコントロールを行うと、術中・術後の疼痛の発生が少なく、回復も早いと言うことが様々なデータから明らかになっています。

 

例えば、術中・術後の痛みをコントロールせずにしておくと、ストレスホルモンが多量に分泌され、術後の回復の妨げになることが示唆されています。また、強い痛みを感じると、その部位の筋肉が過剰に緊張したり血管が収縮して血行が悪くなり、結果として術創の治癒が遅れる可能性があると考えられています。人間の手術の場合でも、最近では殆どの開腹手術(場合によっては心臓の手術などでも)では手術翌日にはベッドから起き上がり、なるべく早く退院させるのが常識となってきているのはご存知のことでしょう。「術後に必要以上に安静にさせること」が却って回復を遅らせ入院期間を無駄に延長させていることが判って来たこと、そして術前・術後のペインコントロールが一般化して来たことで、このような早期の退院が可能になったのだと思われます。

 

このように、あらゆる場面で「痛みをコントロールすること」は、治療を速やかにしたり、患者自身の闘病生活を快適なものにしたり、病気や術後の回復を早めたりする上で非常に重要な因子となります。当院では、癌や慢性の関節炎などの病気に対してはもちろんのこと、避妊・去勢手術やその他の手術の際にも、最も適切と思われる方法で必ずペインコントロールを実施しています。

 

 

当院で避妊手術を受けられた犬のご家族の方の中には、退院後に本人(犬)が術創を痛がる様子もなく普段と殆ど変わりなく歩き回ったり走ったりする様子を見て、

 

「すごいですねぇ。やっぱり犬って人間みたいに痛みを感じないんでしょうか?」

 

と感心される方が時々いらっしゃいます。 しかし、上記の説明でもお分かりのように、術後にこの犬が殆ど痛がる様子を見せないのは、「犬は痛みを感じない」からではなく、ペインコントロールを適切に実施しているからというのがその理由なのです。特に、手術前;つまり痛みの原因となる侵襲が生じるよりも前に鎮痛剤を投与して、痛みを引き起こす物質の産生を抑えることにより、効率良く疼痛を抑えることが出来ます。この方法は「先制鎮痛療法」などとも呼ばれていますが、痛みが生じてから鎮痛剤を投与するよりも効果的であることが判っています。また必要に応じて異なる系列の複数の鎮痛剤を併用したり、局所麻酔や神経ブロックと言う方法を併用したりすることで、さらに確実なペインコントロールを実施することが可能となります。

 

その他にも、手術後の疼痛を抑えるためには、手術中の組織の扱い方や縫合方法(例えば腹壁の縫合の際には腹膜を縫わないこと、など)も非常に重要なファクターとなります。私見ですが、縫合方法を改善し、きちんとペインコントロールをするようになってから、(多少の個体差はあるものの)術創を舐めて傷が開いてしまった、というような事故がかなり減少したように思います。この点を見ても、ペインコントロールを実施することで術創を気にすることなく、術後早期から快適な生活を送ることが可能になる、と言うことが分かります。

 

交通事故や胃捻転・胃拡張などのような緊急手術の場合ならある程度痛くても仕方がない(もちろんこのような場合でもペインコントロールは必要ですが)と考えることも出来ますが、避妊や去勢手術のように「病気ではないが普通に生活する上で必要な手術」の場合には特に、必要以上の痛みやストレスを与えて精神的トラウマを生じさせたり、「病院嫌い」「獣医嫌い」にさせたりすることは、可能な限り避けたいと考えるのが普通ではないでしょうか?

 

注)痛みの感受性は個体差が大きく、動物の品種や年齢、怪我や手術の部位などにより大きく異なります。また本文中にもあるように、先制的なペインコントロールが可能な状況であったかどうか、という部分も非常に大きな因子となります。特に骨や中枢神経の傍などに転移した「癌」による痛みはコントロールが非常に困難です。当然ながら全ての「疼痛」を完全に除去することは不可能であり、場合によってはペインコントロールを実施しているにも関わらず強い痛みを生じてしまうケースがあることをご了承ください。

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