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2017.11.02(木)

実はノミの被害は前述したような「刺されることによるノミ皮膚炎」や「ノミアレルギー」、「条虫の媒介」に留まる訳ではありません。先日2005年6月19日)、アメリカのコロラド州立大学の内科学専門医であるDr.Lappinの講義を拝聴し、特に猫の寄生虫疾患を中心に「最新情報」を得る機会があったので、その内容のうち主に「ノミの被害」について、かいつまんでご紹介したいと思います。

 

 

▽ノミは危険な寄生虫!!

ノミに刺されると皮膚炎を引き起こしますし、子犬や子猫などに大量に寄生して吸血した場合には貧血が起きることもあります。しかしそれよりも大きな問題として、血液から感染する様々な病原体を媒介する「ベクター」となる、と言う点が挙げられます。ノミが媒介することが知られている猫の病気としては、以下のようなものがあります。

 

・ネコ引っかき病(バルトネラ;Bartonella henselae)
・マイコプラズマ症(Mycoplasma haemofelis, M. haemominutum)
・ネコリケッチア(発疹チフス)
・猫白血病ウイルス(FeLV)

 

このうち、猫引っかき病(バルトネラ症)とネコリケッチア(発疹チフス)人畜共通感染症つまりヒトにも感染する病気です。ヒトが猫引っかき病に感染すると、リンパ節が腫れて膿が出たり発熱したりと、様々な症状を引き起こします。特にHIV患者の方や臓器移植、アトピーなどで免疫抑制剤を使用している方などの場合には、症状が重篤化する可能性が高いので要注意です。バルトネラは猫だけではなく、犬にも感染していることがあります。発疹チフスも、発疹を伴う発熱や疼痛、重症の場合には神経症状が現れて昏睡状態になることもあると言う、非常に怖い病気です。
マイコプラズマ症は、少し前までは「ヘモバルトネラ症」と呼ばれていた、猫の赤血球に寄生して「猫伝染性貧血」を引き起こす病原体です。FeLVはご存知の通り、白血病症状やリンパ腫などの腫瘍性疾患を引き起こす、猫の伝染病です。マイコプラズマやFeLVはヒトには感染しませんが、猫に感染し発症すると命を落とす場合もある非常に怖い病気です。
バルトネラは、ノミの糞便中で9日間生存することが判っているそうです。猫が毛づくろいをしたりした際に、爪の間などに「ノミの糞」が入り込み、その爪で引っかかれることにより、傷口からバルトネラが入り込んでヒトに感染するのではないか、と考えられています。その他、ノミの糞が直接ヒトの傷口や粘膜などから入ることで感染する可能性もあるようです。またネコリケッチアは主に、口や鼻からノミの糞を吸い込むことで、ヒトに感染すると考えられています。

 

このように、ノミは人畜共通感染症を含む様々な病原体を媒介していることが知られています。猫自身をノミの被害から守るために「ノミの予防」をすることは当然のことですが、特に小さなお子さんがいる家庭や、高齢の方、免疫低下を伴うような病気を持った方などが一緒に生活している場合には特に、ノミやその他の寄生虫の予防・駆除をしっかりすることが、非常に重要です。きちんとノミのコントロールを実施することは、猫だけではなく一緒に生活するヒトの健康を守るためにも、絶対に必要なことなのです。

 

▽その他の人畜共通感染症

バルトネラやリケッチアの他にも、猫からヒトに感染する病気には様々なものがあります。主に猫の糞便が感染源となる人畜共通感染症を以下に挙げます。

 

・鉤虫症
・カンピロバクター症
・クリプトスポリジウム症
・ジアルジア症
・サルモネラ症
・猫回虫症
・トキソプラズマ症

 

これらの感染症の中には、下痢などの症状を引き起こして数日で自然に回復するようなものもあれば、回虫症のように「眼球」に迷入して失明を引き起こすような怖い病気も含まれます。健康なヒトにとってはそれ程大きな問題とはならなくても、何らかの原因で免疫の低下しているヒトに感染すると、極めて重症となる感染症もあります。これらの「糞便からうつる」感染症の中には、病原体が感染力を持つまでに数日かかるようなものもあるため、「トイレを毎日きれいに片付ける」と言うことは有効な予防手段となります。
これらの人畜共通感染症によるヒトおよび環境への被害を最小限に食い止めるため、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)およびCAPC(伴侶動物寄生虫協議会)では、以下のような駆虫プロトコールを推奨しています。

 

・子犬とその親犬は、生まれて2週、4週、6週および8週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・子猫とその親猫は、生まれて3週、5週、7週および9週目に駆虫し、その後は半年齢まで毎月1回駆虫する。
・成犬、成猫では生活環境により1年に2~4回糞便検査をし、必要な治療を行う。

 

そして特に外出する機会の多い犬や猫の場合は、1年に12回(毎月1回)駆虫を行うことが推奨されると言うことです。

 

▽乳幼児や病人のいる家庭では動物を飼わないほうが良いのか?

これだけ怖い「人畜共通感染症」があるのですから、乳幼児や高齢者、HIVその他の免疫低下状態の方のいる家庭では犬や猫などの動物を飼うべきではないのでしょうか?新聞やヒトの医療関連のサイトなどでは、このような内容の記述を眼にすることがあります。しかし、アメリカのCDCでは「HIV感染者のための、ペットからの感染を防ぐための手引き」と言うものを出しており、このガイドラインに従って犬・猫を管理すれば「HIV患者でもペットを飼うことをあきらめる必要はない」と言っています。ですから、きちんと飼育することができれば、小さな子供や寝たきりのお年寄りのいる家庭でも、飼育をあきらめたり放棄したりする必要は全くないのです。「下痢や皮膚病などの症状が無く健康で、寄生虫の予防とワクチン接種をしっかりしてある犬・猫は、ヒトに病気を移すリスクは殆どない」と言われています。自分自身や子供の身を守るため、そしてヒトと動物がいつまでも健康に幸福に共存して行くために、定期的な駆虫とワクチン接種は必要不可欠という訳です。

ここで何故「人畜共通感染症を防ぐために猫のワクチン摂取が必要なのだろう?」と思われた方もいるかもしれません。確かに猫のワクチンの対象となっている病気(FVR, FCV,FPV+FeLV)はヒトにうつる病気ではありません。しかし、これらの「猫特有の」感染症にかかっている猫は、その他の病原体の感染に対しても非常に弱く、そのためヒトに対して様々な感染症をもたらすリスクが高くなる、というのが「ワクチン接種が不可欠」である理由です。

2017.11.02(木)

▽健康診断の必要性

私たち人間の場合は、就労環境や生活している自治体によっても多少の違いはあるかもしれませんが、大抵の人は少なくとも年に1回程度は「健康診断」を受けるのが普通なのではないでしょうか?通常の健康診断の他にも、胃がん検診や乳がんの検診など、様々な「検診」を受けることで早期に病気を発見することができるので、早期の治療が可能となります。
犬や猫など、動物の場合も人間と同様に健康診断をする必要があります。特に動物の場合は人間のように「言葉で症状を訴える」ことができないため、病気の発見が遅れがちになります。また少々具合が悪くても、元気に振舞って症状を隠してしまう動物もいます。したがって、「おかしい」と気が付いたときには、病気はかなり進行していることも稀ではありません。
最近は犬や猫たちも非常に長寿になり、また食餌などの生活環境などの影響もあって、糖尿病などの所謂「成人病」や、癌などの老齢疾患の発生が増えています。これらの病気は、早期に診断して治療を開始することで、治癒あるいは進行を止めることができる場合も少なくありません。健康診断を受けることで、このような病気を早期に発見することができる場合があります。

 

▽健康診断の検査内容

1.身体検査

聴診器で心臓や肺の音を聞いたり、体のあちこちを触って異常がないか確認したり、熱や脈拍を測ったりします。通常は、診察の際に毎回身体検査を行うのが普通です。

 

2.血液検査

身体検査だけでは判らない異常を見つけることができます。血液検査の数値には動物種によって「正常値」がありますが、実際には結構個体差があります。ですから、「健康なときに血液検査を受ける」ことで、個体ごとの「正常値」を知ることができます。具合が悪くなって初めて受ける、というのではなく、健康なときに一度検査を受けておくことをお勧めします。

 

3.糞便検査・尿検査

糞便検査では、便の中に寄生虫の卵などのが出ていないか、下痢や嘔吐を起こすような異常な細菌や原虫などがいないか、確認します。尿検査では、膀胱炎や結晶の有無、異常な細胞や病原体が出ていないか、pHの異常や蛋白、潜血などの有無を調べます。

 

4.レントゲン検査

必要性がないのに闇雲にレントゲンを撮ることはあまりありませんが、心臓や呼吸器系などの異常が疑われる場合には「胸部レントゲン」、肝臓や消化器、泌尿生殖器など腹部臓器の異常が疑われる場合には「腹部レントゲン」を撮影します。また(特に犬の場合)品種により股関節などに異常が発生するリスクの高いものでは、股関節のレントゲンを撮る場合もあります。

 

5.超音波検査

聴診などで心臓の異常が疑われる場合には心臓の超音波検査を行います。またレントゲンと同様に腹部臓器の異常が疑われる場合には腹部の超音波検査を行います。当院では「カラードップラー検査」による心臓の詳細な検査をすることができます。

 

▽健康診断で「わかること」と「わからないこと」

「健康診断」を受けることで、色々な異常を発見することができます。しかし残念ながら、上記の検査をすることですべての病気を確実に早期発見できる、という訳ではありません。身体検査では外見上(あるいは聴診・触診上)で異常が見られる疾患を見つけることは出来ますが、外見上無症状の病気を見つけることは出来ません。血液検査では、「血液検査数値に異常が生じる」病気を発見することができます。例えば糖尿病、腎不全、肝障害、貧血や白血球の増加・減少などです。副腎皮質の病気や甲状腺の病気など、内分泌系の病気も、直接確定診断をつけることは出来なくても、ある程度「あたりをつける」ことは可能です。しかし、例えば体表に見えない癌などの腫瘍性疾患を小さいうちに発見することは困難です。動物では、人間の検査では一般的となっている「腫瘍マーカー」が、まだ見つかっていません。したがって、血液を採ることで腫瘍の有無を見つけることは出来ないのです。
しかしだからと言って、健康診断をする意味がない、という訳ではもちろんありません。健康診断は万能ではありませんが、それでも色々な病気を早期に発見出来ることには変わりないのです。

 

▽健康診断はどれくらいの頻度で受けたらよいか

一概には「どれくらい」とは言えませんが、最低でも年に1回程度は、血液検査を含めた健康診断を受けるのがよいでしょう。犬の場合には、春にフィラリアの検査のために採血をする際、一緒に血液検査を受けるという方が多いようです。犬や猫の1年を人間の歳で換算すると、約4年~5年に相当します。ですから、年に1回の検査でも、人に当てはめれば4-5年に1回しか検査を受けていない、という見方もできます。若くて健康なうちは構わないでしょうが、8歳を越えたら年に2回程度は健康診断を受けるべきではないでしょうか?

 

:当院での検診内容についてはこちらをご覧ください。

2017.11.02(木)

「狂犬病」の予防注射は何故必要なのか?

 

▽「狂犬病」と「狂犬病予防法

「狂犬病」は狂犬病ウイルスにより引き起こされる、神経症状を伴う致死性の高い、非常に怖い「人畜共通感染症」です。狂犬病ウイルスに感染して発症した動物の唾液中にウイルスが含まれており、多くの場合これらの動物に噛まれる事で感染します。感染しても直ぐに発症するわけではなく、ヒトの場合は通常1~3ヶ月間(もっと長い例も報告されています)、犬の場合は2週間程度の潜伏期間の後、狂犬病を発症します。症状は、まず音や光に過敏になり、狂騒状態となり、動物では目の前にあるもの何にでも噛み付くようになります。やがて全身麻痺を起こし、昏睡状態となって死亡します。発症した場合、犬やヒトでの死亡率は約100%です。
「狂犬病」と言う名前のため、「犬からうつる病気」と思われがちですが、実際には全ての哺乳類に感染します。牛や馬などの草食動物にも感染しますし、リスやアライグマなどの野生動物や、ネズミなどのげっ歯類からヒトに感染することもあります。したがって、「病名」としてはあまり適切なネーミングでは無いと、個人的には思っています。

 

「狂犬病予防法」では、「犬の所有者は、犬を取得した日(生後90日以内の犬を取得した場合は、生後90日を経過した日)から30日以内に、その犬の所在地を管轄する市区町村に登録の申請をし、鑑札の交付を受けなければならない」と定められています。狂犬病予防注射についても、「室内犬を含む生後91日以上の犬を所有する者は、毎年1回、狂犬病予防注射を受け、注射済票の交付を受けなければならない」と定められています。そして鑑札や注射済票は犬に付けておかなければならないことになっています。きちんと法律を守って登録をしている人は、毎年春になると管轄の市区町村から狂犬病予防注射のお知らせの葉書が送られて来ます。

 

▽「森林型」と「都市型」の狂犬病

狂犬病の発生の仕方には、大きく分けて「森林型」と「都市型」の2種類があります。森林型はコウモリやスカンク、アライグマなど、野生動物の間に狂犬病ウイルスが蔓延するタイプで、野生動物の多いアメリカやヨーロッパなどでは森林型の発生が主流です。「森林型」の場合には、自然界にウイルスが蔓延しているため、狂犬病の予防対策が極めて困難ですが、ヒトへの感染の機会はそれ程多くは無いと言う特長があります。(2000年のアメリカCDCの報告では、野生動物の狂犬病感染死亡頭数が約7000頭に対してヒトの感染死亡者数は5人、犬114頭、猫249頭です。)これは野生動物と人間の接触がある程度限られているためであると思われます。したがって、「森林型」における現実的な狂犬病対策は、正確な知識と良識をもって野生動物と接する(=触らない・関わらない)ことが非常に重要になります。
これに対して、都市型の発生は、人口密度の高い、主に途上国の都市部で見られます。インドやタイ、中国などにおける狂犬病の発生は「都市型」に含まれます。都市型の特徴は、動物での感染頭数に比べて人での感染者数がかなり多い、と言うことです。この都市型狂犬病において、ウイルスを媒介する主な動物は、ヒトに最も身近な動物である「犬」であることが判っています(80~98%)。特に野犬の多い地域では要注意です。実際、過去に日本で狂犬病の発生が見られたときにも「都市型」の発生でした。

 

と言う訳で、とりわけ都市型狂犬病の発生を防ぐためには、犬に対して狂犬病の予防注射を接種することが重要、と言うことが理解できます。もちろん本来なら、ヒトを含め全ての哺乳動物に予防接種をすべきと言う意見が「正論」なのですが、実際には上記の理由、つまり「都市型狂犬病でのウイルス感染源の80~98%が犬である」という理由から、ヒトとの接触の機会が一番多い「犬」に対して、狂犬病予防注射を接種することが、根拠のある現実的な対応策とされています。このような理由から、日本では「犬」だけが狂犬病予防注射の対象になっているのです。
では日本の犬の「狂犬病予防注射」の接種状況はどうなっているのでしょうか?

▽日本の狂犬病予防注射接種状況

日本では、生後90日齢を過ぎた犬には狂犬病の予防接種を受けさせる事が法律で義務付けられています。平成14年度のデータでは、日本国内の犬の登録件数は約600万頭となっており、この年の狂犬病予防注射接種率は約76%と言う比較的高い数字となっています。ところが、実際には犬を飼っていても登録していないケースがかなりあると予想され、現実の犬の国内飼育頭数は約1000万頭以上と考えられています。従って、実際の狂犬病予防注射接種率は50%以下(一説によれば38%程度?!)と言うことになります。万が一、日本に狂犬病ウイルスが侵入した場合、これでは狂犬病の蔓延を防ぐことが出来ません。極めて危険な状況であると言えます。
「狂犬病発生国であるアメリカでは狂犬病の注射は3年に1回なのに、清浄国の日本では毎年打つことになっているのは何故か」と言う質問を受けたことがあります。これに答えるためにはまず、前述したように「森林型」と「都市型」の狂犬病対策は異なる、と言うことを理解する必要があります。森林型発生の見られるアメリカでは、犬だけに予防注射を接種してもあまり有効な予防対策になりません。だからと言って、全ての野生動物に予防接種を受けさせることは当然出来る訳がありませんので、「狂犬病を撲滅すること」よりも、「(野生)動物に咬まれたら狂犬病に感染したものと仮定して治療する」ことの方が優先されます。予防よりも早期診断・治療に力を入れざるを得ない、と言う現状があるのだと思われます。但し、決して「予防をおろそかにしている」訳ではありません。前述した数字からも判るように、アメリカでは犬よりも猫での狂犬病の発生数が多いため、猫に対しても狂犬病の予防注射接種が義務付けられているほど予防に力を入れています。さらに、何故3年に1回で良いのかと言う本当の理由は、実はアメリカでは接種後3年間有効なワクチンが認可されている、と言うだけのことなのです。日本では、接種後の有効期間が1年間のワクチンしか認可されていません。だから毎年接種する必要があるのです。

 

▽なぜ狂犬病の予防注射が必要なのか?

私たち獣医師は、「狂犬病に感染した犬」を治療することが出来るでしょうか?答えは「No」です。獣医師は、狂犬病が疑われる犬やその他の動物を「治療する」ことは、法律で禁じられています。もちろん発症したら致死率100%なので実際に「治療不可能」なのですが、万が一「狂犬病の発症」と思われる犬(その他の動物)を診察した場合には、狂犬病予防法および家畜伝染病予防法に従い、ヒトや周囲へのウイルスの蔓延を防止するために「患畜」を隔離し、保健所または管轄の都道府県知事に届け出なければならない、と定められています。現在、日本国内では狂犬病の発生がないので、私たちも「狂犬病は無いもの」として日常の診療をしていますが、もしも日本のどこかで狂犬病が発生したという状況で、目の前に「狂犬病を疑わせるような神経症状を示す犬」が連れてこられた場合、そしてその犬が「狂犬病の予防注射を受けていない」のが明らかな場合、私たち獣医師は、周辺住民の命と生活を守るため、そして周辺地域の沢山の動物達の生命を守るため、獣医師の良心と法律に従ってその犬を隔離し、届出義務を果たさなければならないのです。もちろん、その犬が狂犬病の予防接種を受けていれば、このようなことにはなりませんが・・・。

 

「狂犬病予防法」は基本的に「人間の命と安全」を守るために定められた法律であり、犬や動物達のための法律ではありません。したがって、特に犬に対して多少の負担を強いる内容になるのはある程度仕方のないことです(確かにワクチン接種による副作用のリスクも否定できません)。「狂犬病に感染するのが怖ければ人間がワクチンを接種すればよいだろう」と言う暴論もあるかもしれません。確かに、私たち獣医師などはリスクが高いのでそうすべきかも知れませんし、海外旅行者はそうすべきです。しかし世の中には「動物嫌い・犬嫌い」の人も沢山います。こういう人たちから言わせれば、「それなら犬を飼うことを禁止すればよい」となるかも知れません。大切なのは、『「狂犬病」と言うのは、今話題のBSEや鳥インフルエンザなどとは比べ物にならないほど怖い、非常に致死率の高い感染症であり、私たち人間の命に関わる重大な問題だ』と言うことをきちんと認識することなのです。

 

「狂犬病の予防注射なんて打たなくても構わない」と考えている方がもしいるとすれば、それが本当に「社会人として責任ある判断」なのかどうか、良く考える必要があると思います。

 

▽狂犬病予防注射の接種時期

区・市役所に「飼犬の登録」をしている人は、毎年3月になると「狂犬病の予防注射のお知らせ」の葉書が送られてくる事と思います。これは日本では4月の初めが「狂犬病予防週間」として定められているからです。なぜ4月か、と言えばこれは行政の業務の都合であり、獣医学的な理由からではありません。従って、なんらかの都合により4月に狂犬病の予防注射を接種できなかったとしても、他の月に接種すれば全く問題ありません。なかには毎年9月や12月に接種している、という方もいます。ただしこのような場合には、市や区から「今年度の狂犬病予防接種をまだ受けていません」と言うお知らせが来る場合があります。これは、行政が4月からの年度制を基準にしているため、例えば前年の12月に注射をしていたとしても、「今年度は未接種」と見なされてしまうためです。しかし、きちんと毎年接種しているのならば、何ら問題はありませんのでご安心下さい(但し、真夏の暑い時期にワクチンを接種するのはあまりおすすめではありません)

2017.11.02(木)

▽「狂犬病」とは?

「狂犬病」はその名称から、主に犬の病気だと思われがちです。しかしながら狂犬病は「ヒト」を含む全ての哺乳動物に感染します。実際に海外では、アライグマやコウモリ、キツネ、スカンクなどの野生動物、およびこれらの野生動物と接触の機会の多い「放し飼いの猫」などから、ヒトへの感染が大きな問題となっています。アメリカやカナダを訪れたことのある人は、公園などで野生のリスやプレーリードッグなどを御覧になった事があるでしょう。しかし幾ら「可愛らし」くても、これらの野生動物は狂犬病ウイルスを持っている危険性があるので、絶対に触ってはいけません

 

狂犬病の原因はウイルスです。狂犬病ウイルスに感染し、発症した動物の唾液中にウイルスが含まれており、多くの場合これらの動物に噛まれる事で感染します。感染しても直ぐに発症するわけではなく、ヒトの場合は通常1~3ヶ月間(もっと長い例も報告されています)、犬の場合は2週間程度の潜伏期間の後、狂犬病を発症します。症状は、まず音や光に過敏になり、狂騒状態となり、動物では目の前にあるもの何にでも噛み付くようになります。やがて全身麻痺を起こし、昏睡状態となって死亡します。発症した場合、犬やヒトでの死亡率は約100%です。

 

▽狂犬病の予防接種は必要か?

「狂犬病は、日本ではもう発生がないので安全だ」ということを言う人がいます。しかし、狂犬病は本当に「過去の病気」なのでしょうか?現在、指定地域(日本の農水大臣が指定する狂犬病清浄国と地域)と言われているのは、日本や台湾、イギリス、北欧の一部やオーストラリア、ニュージーランドなど、世界のほんの一部の国だけです(※)。確かに日本では、1957年以降国内での狂犬病の発生は報告されていません。しかし地球上の大多数の国では、いまだに多くの人や動物が狂犬病で命を落としています。BBCの報道によると、昨年の1月から9月までの間に中国で狂犬病のために死亡したヒトの数はおよそ1,300人だそうです。インドでは毎年約30,000人が狂犬病に感染して死亡しており、ロシアや東南アジアでも毎年非常に多くの発生報告があります。全世界では毎年約50,000人のヒトが、狂犬病で死亡しているのが現状です。

 

海外からの動物の入国に対する日本の検疫制度が、2004年11月6日から改正になりました。これに伴い、輸入しようとする全ての犬・猫にマイクロチップの装着が義務付けられ、狂犬病発生国からの生後10ヶ月未満の犬・猫の輸入が禁止になりました。さらに狂犬病発生国から入国する場合は、狂犬病の抗体価の測定、および狂犬病の予防注射を2回以上接種していること、などが必要となります。また対象となる動物も犬や猫だけではなく、キツネ、アライグマ、スカンクまで含まれるようになりました(詳しくは農林省の「動物検疫所」のホームページを御覧下さい)。このことは、狂犬病が決して「過去の病気」などではなく、今現在も常に日本に侵入する危険性のある、非常に怖い病気である、という事を意味しています。

 

狂犬病の発生を防ぐためには、狂犬病の予防注射を接種することが重要です。本来なら、ヒトを含め全ての哺乳動物に予防接種をすべきところですが、実際にはヒトとの接触の機会が一番多い「犬」に対して、狂犬病予防注射を接種することが、現実的な対応策とされています。では日本の犬の「狂犬病予防注射」の接種状況はどうなっているのでしょうか?

 

※台湾は2013年7月より指定地域から削除されました。2013年9月現在、日本以外の指定地域(農水大臣が指定する狂犬病清浄国および地域)はアイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムの6つだけです。

 

▽日本での狂犬病予防接種状況

日本では、生後90日齢を過ぎた犬には狂犬病の予防接種を受けさせる事が法律で義務付けられています。平成14年度のデータでは、日本国内の犬の登録件数は約600万頭となっており、この年の狂犬病予防注射接種率は約76%と言う比較的高い数字となっています。ところが、実際には犬を飼っていても登録していないケースがかなりあると予想され、現実の犬の国内飼育頭数は約1000万頭以上と考えられています。従って、実際の狂犬病予防注射接種率は50%以下、ということになります。万が一、日本に狂犬病ウイルスが侵入した場合、これは極めて危険な状況と言わざるを得ません。

 

ここ数年のSARSや鳥インフルエンザ、BSE発生に対する国内の騒動を見れば、もしも日本で狂犬病が発生した場合、国中がパニック状態に陥る事は想像に難くありません。しかも狂犬病の場合、感染して発症した場合の死亡率はほぼ100%ですから、その脅威はSARSや鳥インフルエンザ、BSEの比ではありません。SARSや鳥インフルエンザのときは、飼っているハクビシンや鳥を放してしまう無責任な人もいたと聞きます。しかし、一人ひとりが責任を持って飼犬の狂犬病予防注射を受け、国内のワクチン接種率を高い水準に保つことができれば、このようなパニックに陥る必要は全く無くなるのです
自分の愛犬を守るため、自分達人間の命を守るため、愛犬に狂犬病の予防注射を接種することは、飼い主として果たすべき社会的責任の一つであると言えるのではないでしょうか。

 

▽狂犬病予防注射の接種時期

区・市役所に「飼犬の登録」をしている人は、毎年3月になると「狂犬病の予防注射のお知らせ」の葉書が送られてくる事と思います。これは日本では4月の初めが「狂犬病予防週間」として定められているからです。なぜ4月か、と言えばこれは行政の業務の都合であり、獣医学的な理由からではありません。従って、なんらかの都合により4月に狂犬病の予防注射を接種できなかったとしても、他の月に接種すれば全く問題ありません。なかには毎年9月や12月に接種している、という方もいます。ただしこのような場合には、市や区から「今年度の狂犬病予防接種をまだ受けていません」と言うお知らせが来る場合があります。これは、行政が4月からの年度制を基準にしているため、例えば前年の12月に注射をしていたとしても、「今年度は未接種」と見なされてしまうためです。しかし、きちんと毎年接種しているのならば、何ら問題はありませんのでご安心下さい(但し、真夏の暑い時期にワクチンを接種するのはあまりおすすめではありません)。

2017.11.02(木)

■不妊手術とは?

不妊手術とは、繁殖により子孫が生まれないようにするための手術で、一般的に雄の場合なら「去勢手術」、雌の動物なら「避妊手術」と呼ばれています。動物を「繁殖」目的で飼育する場合以外は、不妊手術を実施するのが一般的です。犬と猫の場合に於ける、不妊手術のメリットとデメリットに関しては、こちらを参考にしてください。

 

■不妊手術の方法

雄の場合の不妊手術(去勢手術)では、両方の精巣を切除します。陰嚢またはその直ぐ上の皮膚を切開し、精巣を露出させて血管と精索という管を糸で結紮して、摘出します。切開した皮膚は縫合して閉じます。猫の去勢手術の場合は、切開した陰嚢の皮膚の収縮が早く、縫合の必要が無い場合もあります。
精巣はもともとお腹の中にあったものが、生後数週間(場合によっては数ヶ月)の間にお腹の外=陰嚢に降りてきます。しかし、ときおり精巣がお腹の中に留まったまま、成長が終わっても降りてこない場合があります。このような状態を「潜在精巣」と呼びます。お腹の中に残った精巣は、そのままにしておくと、数年経ってから「腫瘍化」する可能性が高く、「セルトリ細胞腫」という悪性腫瘍が発生した場合には、腫瘍細胞から過剰に分泌されるエストロジェンにより骨髄抑制が起こり、不可逆性の貧血・血小板減少症を引き起こして命を落とす場合があります。このため、潜在精巣が判明している場合には早期にお腹の中に残っている精巣を摘出することが推奨されます。
精巣が、お腹の外には出ているけれど、陰嚢には到達していない、というケースもあります。多くの場合はソケイ部などの皮下に留まっている事が多く、この場合も正常な精巣に比較すると腫瘍化するリスクは大きいと考えられるため、早期に摘出すべきと考えられます。

雌の場合は、 卵巣だけを摘出する方法と、卵巣および子宮を摘出する方法と、大きく2通りの方法に分けることが出来ます。一昔前までは、卵巣だけを摘出する方法が主流でした。その後、卵巣だけを摘出して子宮を残すと、残った子宮が蓄膿症になるなどの説が広まり、現在では「卵巣および子宮」を摘出する方法が一般的となっています。ところが、繁殖学の専門家の最新の知見では、「健康な子宮は切除せずに残しておいても、蓄膿症などの合併症を起こすことは理論的にあり得ない」とされているのです。つまり、卵巣だけの摘出でも全く問題が無い、とうことが判って来たのです。
しかしながら、現在日本国内では「卵巣子宮摘出」が主流です。またアメリカなどの海外でもこの方法が主流となっているようです。その理由として、「卵巣摘出では卵巣の取り残しを起こす確立が高い」というのが一番に挙げられるようです。アメリカは訴訟社会ですから、切除したはずの卵巣を取り残して、子宮蓄膿症などの合併症を起こした場合には、獣医師の責任が大きく問われる事になります。このため、より確実に大きく切除して取り残しが無いようにする方法として、卵巣子宮摘出術が多く採用されている、という実情があるようです。日本の獣医学はアメリカの影響を強く受けているため、日本でも同様の方法が一般的になっているものと考えられます。

当院では、上記の「健康な子宮は切除せずに残しておいても、蓄膿症などの合併症を起こすことは理論的にあり得ない」と言う最新の考え方を採用し、特別な理由が無い限り「卵巣だけの摘出」を行っています。

過去数年間にわたり卵巣摘出を100例以上で実施しておりますが、取り残しや子宮蓄膿症などの合併症を起こしたケースは1例もありません。反対に、(他の病院で)卵巣・子宮摘出を実施されていたケースで、子宮の結紮/切除部位に膿瘍や縫合糸に対する異物反応を起こしたため開腹による切除が必要となった症例や、子宮の切除が不十分で、いつまでも陰部からの粘液分泌が続いて治まらなかった症例などを幾つも経験しています。このような事も考え合わせると、卵巣だけの摘出は合併症も少なく、そのメリットは大きいものと思われます。

例外的な注意として、将来「乳腺腫瘍」が発生し、性ホルモンとしての作用を持つある種の抗癌剤を使用した場合、残した子宮が蓄膿症を発生する可能性があります。しかし、乳腺腫瘍に対して抗癌剤を使用することがそれ程一般的ではないこと、さらにこの抗癌剤は副作用が強く効果も一定ではないため、動物での使用は極めて限られている事、などから、この薬剤使用による合併症の発生は、リスクの大きさとしては非常に小さなものと考えられます。

不幸にして、残した子宮に腫瘍などの疾患が発生する可能性もゼロではありません。そこに「細胞」がある限り、腫瘍が発生する可能性を否定できるものではありません。しかしながら、その可能性はその他の臓器や組織に腫瘍が発生するリスクと同等のものであり、これを防ぐために子宮を切除するというのは例えば、極端に言えば「骨肉腫が出来るといけないので健康な足を切断する」とか、「血管肉腫ができるといけないので健康な脾臓を摘出する」と言うのとあまり変わらない発想になります。

「それでも卵巣と子宮を取って欲しい」というご希望がある場合には、もちろん「卵巣・子宮摘出」を実施しております。

Ohio State Universityの獣医軟部外科専門医Dr.Smeakとの会話も参考になります。

 

■不妊手術はいつすれば良いか?

「去勢手術」「避妊手術」はいつ頃すればよいのか?と言うのはよく受ける質問です。これは「何を目的とするか」により、適切な時期が異なります。
単に「繁殖を防ぐため」だけであれば、時期はいつでも構いません。繁殖してしまう前に手術を受ければよいでしょう。また「攻撃性」などの問題行動を防ぐ目的ならば、なるべく早期に不妊手術をすべきです。最近のアメリカでは、子犬や子猫がまだかなり小さいうちに手術をしても、特に大きな問題はない、という考え方もあるようです。しかし日本では習慣的に、あまり小さな子犬や子猫に全身麻酔をかけて手術を行うことはされていません。当院でも、特別な理由が無い限り、生後2ヶ月以内の動物に全身麻酔をかけて手術する事は出来る限り避けるようにしています。

一番問題になるのは、雌の犬における「初回発情」との時期的な兼ね合いでしょう。初回発情(生理)が来る前に避妊手術を実施すると、将来的に乳腺腫瘍の発生率が低くなる、というデータがあります(※)。このため、生まれて最初の発情が来る前に避妊手術を行うのが効果的であると言われています。早い個体では生後5ヶ月齢くらいで初回の発情が来てしまうこともあるため、4-5ヶ月齢のころには手術を考えた方がよいかもしれません。もちろん、手術前に発情が来てしまったら絶対に将来乳腺腫瘍が発生する、と言うわけではありません。たとえ何度か発情を経験してしまった後に手術した場合でも、避妊手術をしない場合と比較すると乳腺腫瘍の発生率はやや低くなると言われています。猫の場合も、(犬の場合ほどはっきりした関連性は見られませんが)避妊手術をした猫の方が、手術をしていない猫よりも乳腺腫瘍の発生率が低い、と言われています。

つまり、特に雌犬の場合は、「乳腺腫瘍」の問題に拘るのなら、生後4-5ヶ月くらいで避妊手術をすることを考える、それ以外の場合は、ある程度成長が終わった時点(1歳前後)で手術を考えるのが、現段階では適切ではないかと思われます。

※ 追記(2013年9月);近年、雌の不妊手術の実施時期と乳腺腫瘍の発生率との因果関係が曖昧になりつつあります。世界中の信憑性のありそうな文献を調査した結果、今まで考えられていたほどには明確な関連性は確認されなかった、という文献が発表されました。詳しくは院長のブログをご覧ください。

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