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2005.07.09(土)

以前の病院に勤めていたときのことですが、ある小型犬の飼い主さんが暫くぶりに来院し、「実は入院して腎移植を受けたんです」という話を聞いて、びっくりした事があります。何故そんなにびっくりしたのかといえば、その飼い主は私よりも一回り近く年下の、まだ二十歳を少し越えたばかりの若い女性の方だったからです。そのような若い年齢で、腎不全を患い腎移植手術という大手術を受けるなどということは、私自身には想像もできないような大変なことに思えたのです。臓器移植というのは、手術が成功すればそれで終わり、というものではありません。ドナー(臓器提供者)から移植された臓器は、レシピエント(臓器をもらう人)の体から見れば「異物」とみなされてしまう為、本人の免疫系が働いて移植臓器を攻撃してしまうのです。これがいわゆる「拒絶反応」というもので、拒絶反応が起きるとせっかく移植した臓器が死んでしまうため、レシピエントの人は自分自身の免疫反応を抑えるために、免疫抑制剤を飲み続けなければならないのです。ところがこの免疫抑制剤は、移植臓器の拒絶反応を抑えるだけではなく、ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体に対する抵抗力も同時に低下させてしまうため、感染症に対する予防には非常に神経を使う必要があるのです。

 

私達がペットとして飼育している犬や猫その他の動物から、人に移る病気(人畜共通感染症)が幾つかあることが知られています。健康な人にとってはそれ程の被害とはならなくても、何らかの理由により免疫状態が低下しているような人にとっては、非常に大きな危険をもたらす可能性があります。そして当然のごとく、この女性の場合も主治医から「犬を飼うのはやめたほうが良い」と言われたそうです。
免疫機能が低下するのはなにも「臓器移植」の場合だけではありません。日本でもHIV患者の方の数は増加していますし、その他の慢性疾患や加齢などによっても免疫が低下します。寝たきりのお年寄りのいる家庭もあるでしょうし、乳幼児や妊婦の方なども非常にリスクが高いと考えられます。ではこのような人達は動物を飼わない方が良いのでしょうか?

 

アメリカのCDC(疾病対策予防センター)は、HIV患者の為の「ペット飼育ガイド」を出しています。そのガイドの1行目には「(HIVに感染していても)ペットを飼うことをあきらめる必要はありません」とあります。そしてその後には「ペットから病気を移される可能性はありますが、そのリスクは低いものです」、「(感染を防ぐためには)幾つかの基本的な注意点を守るだけで充分です」と続きます。
具体的な注意点としては、以下のようなものを挙げています。

 

・ 動物に触ったり遊んだりした後は(特に食事の前には)よく手を洗うこと。

・ ペットにはペットフードだけを与えるか、肉を与える場合はよく加熱調理したものを与えること。加熱不足の肉を与えたり、トイレの水や生ゴミ、他の動物の糞などを食べさせないように注意すること(下痢をしたり寄生虫などに感染する可能性が高い)。

・ 下痢をしている動物には触らないこと。1~2日以上下痢が治らない場合は、HIVに感染していない人に頼んで動物病院に連れて行ってもらうこと。

・ 病気の動物や、生まれて6ヶ月に満たない小さな動物(特に下痢をしている動物)を家に連れて来ないこと。動物を飼う前には動物病院で健康チェックをしてもらうこと。

・ 色んな病気を持っていることが多いので、野良犬、野良猫などには触らないこと。

・ 動物の便には絶対触らないこと。

・ 猫のトイレの掃除をする時には、HIVに感染していない(妊娠していない)誰か他の人に頼むか、自分でするときはビニール手袋をはめ、終わったらすぐに石鹸で手をよく洗うこと。

・ 猫の爪はきちんと切っておくこと。もし引っ掻かれたら直ぐに石鹸と水でよく洗うこと。

・ 口や傷口などをペットに舐めさせないこと。

・ ペットとキスをしないこと。

・ ノミの駆除・対策をしっかりすること(ノミは様々な病気を運んで来るため)

・ 爬虫類は飼わないこと。もし爬虫類に触ったら、すぐに石鹸と水で手を洗うこと。

・ 水槽やペットのケージの掃除をするときはビニール手袋をはめ、終わったら直ぐ手を洗うこと。

・ 猿やフェレットなどのエキゾチックペット、アライグマやライオン、コウモリ、スカンクなどの野生動物を飼わないこと。

 

注意》上記の項目は私が一部を簡略的に日本語に訳したものですので、詳しい内容に付いてはCDCのサイトでご確認ください。

 

これはHIV患者のためのガイドですが、臓器移植患者の場合もほぼ同様な注意さえ守れば、安全にペットと暮らすことができるということです。つまり健康に何の問題も無い、6ヶ月齢以上の(出来れば野良ではない)犬や猫を飼育する分には殆ど危険性はない、と言って良いと考えられます。そして特に免疫状態の低下している人の場合は、具合の悪い動物(特に下痢をしている動物)には触らず、便の始末は他の人に頼むこと、動物が食べる物に気をつけることが重要です。そしてワクチンを接種やノミの駆除、定期的な駆虫を行い動物の体をクリーンで健康に保つことで、自分自身の健康を守ることができると言うことになります。
テレビや新聞などで時折、人畜共通感染症の「怖さ」ばかりを煽って「ペットブームに警鐘を鳴らす」と言う趣旨の報道を見ることがあります。確かに人畜共通感染症の怖さは知っておかなくてはなりません。しかし正しい知識さえあれば、決して無暗に怖がる必要はないのです。

2005.05.15(日)

毎年冬から春にかけて、インフルエンザが猛威を振るいます。今年も例外ではなく、皆様の中にもインフルエンザで苦労された方が多数いらっしゃるのではないしょうか?インフルエンザには罹らなくても、この時期は「風邪」をひく人が、数にすればその数倍いるものと思われます。この季節は丁度受験シーズンなどとも重なるため、受験生の皆さんにとっては、「風邪」を予防することは「受験勉強すること」と同じくらい重要なことですね。

 

さて、動物病院にも、犬や猫が「風邪をひいたようだ」と言って連れて来る方が時折いらっしゃいます。我々も、症状がさほど著しくないような場合には、「風邪のようなものかもしれませんね」と言うような言い方をして様子を見ることもあります。犬や猫などの動物は本当に「風邪」をひくのでしょうか?
動物に「風邪」という病気があるかどうかを考えるためには、その前に「人の風邪」について、正確に知っておく必要があります。私達は日常的に「風邪」という言葉を使っていますが、では一体「風邪」とは何なのか、ここで確認してみましょう。

 

「風邪」と言うのはひとつの疾患を言い表す「病名」ではありません。2003年に「日本呼吸器学会」がまとめた診療指針「成人気道感染症診療の基本的考え方」によると、いわゆる「風邪」とは、急性の上部気道炎(喉から鼻までの炎症)で主にウイルス感染が原因であり、発熱、鼻汁、喉の痛みや咳などの症状がみられるものの総称ということになっています。そして、インフルエンザやその他の細菌感染などと区別するように、以下のようなポイントが挙げられています(以下抜粋)。

 

1)普通は3-4日(中には14日程度かかるものもある)で自然に治る。風邪薬で治るものではない。

2)ウイルス感染なので抗生物質は効かない。

3)発熱は身体がウイルスと戦っている証拠であり、ウイルスの増殖を抑えるのに必要な免疫反応である。

4)したがって、解熱・鎮痛剤は症状が余程ひどくない限りむやみに使用しないほうが良い。

5)手洗い、うがいで予防することが大切

 

つまり、「風邪」とはウイルスによる上部気道感染で、栄養と休養をしっかり取れば通常1週間前後で治ってしまうので原則的に病院で治療したり薬を飲んだりする必要はなく、予防が大切、ということになります。ちなみに、インフルエンザは咳やくしゃみなどからの飛沫感染が主な感染経路ですが、通常の「風邪」の場合にはウイルスに汚染された指で目や鼻の粘膜などを触ることによって感染する「接触感染」がメインの感染経路であることが知られているそうです。つまり「風邪」の予防にはうがいよりもむしろ、手洗いのほうが重要性が高いということになります。

 

それでは、動物にはここで挙げた条件に合致するような「風邪」に当たる病気は存在するのでしょうか?

 

猫には俗称「猫カゼ」と呼ばれるウイルス疾患があることが知られています。この病気は正確には「猫伝染性鼻気管炎(FVR)」と言って、ヘルペスウイルスの一種が原因で起こる猫の伝染病です。この病気は特に子猫で重症の鼻炎や上部気道炎を引き起こし、同時に角膜炎や結膜炎など「目の粘膜」にも激しい炎症を引き起こします。中には固まった鼻汁と目ヤニで目が開かなくなってしまったり、結膜が癒着してしまうようなケースもあります。体力の無い子猫では、症状が重度な場合には衰弱して命を落としてしまうこともあります。またヘルペスウイルスの特徴として、症状が改善して一見治ったように見えても、慢性化して後で再発したり、慢性鼻炎として症状が一生涯継続することも稀ではありません。したがって、この病気は「治療しなくても数日で治ってしまう」風邪とは「かなり違う病気」であることが解ります。つまり「猫カゼ」は明らかに「風邪」ではありません。

 

では犬ではどうでしょうか?犬には通称「ケンネルコフ*」と呼ばれる伝染性の呼吸器病があります。ケンネルコフは別名「伝染性気管気管支炎(ITB)」などと呼ばれることもありますが、人の風邪の場合と似ているのは、この病名が「幾つかの病原体を原因とする呼吸器疾患」の総称であるという点です。では「ケンネルコフ」は「風邪」なのでしょうか?ケンネルコフは、その別名であるITBという呼び名からも解るように、「気管支炎」を効率に引き起こします。気管支炎は、もう少し症状が進行すればすぐに「肺炎」へと移行します。肺炎は「上部気道炎」ではありません。もちろん人の風邪の場合でも、こじらせて肺炎になる場合が無いとは言えませんが、かなり稀なケースではないでしょうか?ケンネルコフの原因となる病原体の中には確かに、比較的症状が軽く、殆ど治療らしい治療を必要とせずに数日で改善してしまうものも含まれてはいます。しかし、中には非常に重症化し、数週間から数ヶ月の治療を要するものも珍しくありません。そして初期段階ではこれらを区別することが非常に困難なのです。ですから人の風邪と同じように軽く考えてしまうと治療のタイミングを逃してしまい、危険な場合もあります。

 

という訳で、私の結論としては「猫には風邪はない」「犬には風邪と似たような病気があるのかも知れないが、初期に正確な診断を下せないため『風邪』だとは思わないほうが良い」と言うことになるのですが、皆さんのお考えは如何でしょうか?

*ケンネルコフ:”kennel cough”;本来の発音からすると「ケネルコフ」と表記するのが正しいと思われますが、ケンネルコフが一般的な様なのでここでも「ケンネル・・・」を使用しました。

2005.04.12(火)

最近気になるフレーズのひとつが「自然治癒力を高める」である。これは様々な健康食品やサプリメント類、民間療法などの効果をアピールする際のキャッチコピーとして、非常に一般的に使用されている。デパートの健康食品売り場に行っても、ドラッグストアのサプリメント売り場に行っても、「自然治癒力を高める」もので溢れ返っている。自然治癒力が高まると、なんだか病気にならないような気がするし、怪我をしてもすぐに治るような気がして、とても有難いことのように感じてしまうのが人情かもしれない。

 

本来、医薬品ではないものについて、効能・効果をうたってはいけない(薬事法違反になるので)のだが、「自然治癒力を高める」とか、「免疫力を高める」ということは、それ自体が非常に定義が曖昧で、どのような意味にも捕らえることが可能で、しかも実は「何も意味していない」という可能性もあるため、非常に便利に使われているのだろう。

 

しかし、特に最近色々な「傷の治療」をしている中で感じるのだが、「自然治癒力」は本当に「高める」ことができるのだろうか?傷の治療に関してときどき受ける質問の中に、「傷の治癒を早める薬などはありませんか?」というのがある。確かに「傷の治癒を早める効果がある」として売り出されてる(動物用)医薬品、医療材などがない訳ではない。しかしこれらの殆どに対して、私自身は懐疑的である。

 

創傷治療」のところでも紹介されているが、私が現在行っている傷に対する治療;消毒をせず、乾燥を防いで、ドレッシング材などを利用しながらの治療では、今までの治療よりも非常に早く傷が治ることが多い。しかし私自身は、「傷の治癒を早めている」とは考えていない。これは、傷の治癒を邪魔している様々な「阻害因子」を取り除くことで、本来生体が持っている治癒のスピードに『戻している』だけだと考えている。つまり、「マイナス」のスピードから「ゼロ」に近づけているだけなのである。従って、組織が持っている本来の治癒のスピードである「ゼロ」のレベルにまで達してしまったら、それ以上スピードを「プラス」の方向に上げることは多分できないと思うのである。もしも組織の細胞が本来持っている能力よりも『早く』増殖、分裂するならば、それはまるで「癌」のような状態ではないだろうか??

 

だから、「傷の治癒を早める」と謳っている医療材・薬剤の多くは、それに含まれている基材のお陰で傷の乾燥を防いでいたり、消毒する機会が減ったり、ガーゼが傷にくっ付かなくなったりするなど、意図しない副次的な効果により「たまたま」傷が早く治っただけなのではないだろうか?と考えるのである。しかもこれらの効果を実証するために比較されている治療法は、「消毒してガーゼを当てる」方法なのであるから、どんな方法でもこれより早く治るのは当然のことである。多分、中に含まれている薬剤の効果などは、殆ど関係がない。

 

そもそも傷が治らないのは「原因を除去」しないからであって、全ての傷は自ら治癒する能力を持っている。だから我々ができることは、「原因となっている因子」を除去しつつ、治癒の邪魔をしないこと(本来の治癒しやすい環境を整えること)であって、「特効薬」を塗ることではない。だいたい原因も何も関係なく「付けただけで何でも治る特効薬」など存在しないのである。

 

 

そういう訳で、「傷」に限らず生体にとって「正常な状態」以上に「治癒力を高める」などということは、本来ありえないはず、と考えるのである。病気で体力が落ちている場合や、栄養不良などで免疫が低下している場合には、病原体を除去したり、栄養状態を改善させることで「自然治癒力(免疫力)」を正常に近い状態にまで引き上げることはできるだろう。『マイナス』から『ゼロ』に引き上げることは可能なのだ。つまり、それが「医療行為」とも言えるのだろう。しかし『ゼロ』の状態からさらに『プラス』に引き上げることは恐らく出来ないのである。健康な状態はそれを維持するのが正常な「恒常性」なのであって、それよりもさらにどんどん「健康になる」ことは出来ないのである。「正常値」は、それより低くても、高くても「異常」だ、というのと同じことかもしれない。

 

「普通」が一番「健康的」なのである・・・・。

2005.02.22(火)

「不妊手術を受けるべきか」

「自分の飼っている犬や猫に『不妊手術』を受けさせるべきかどうか迷っているが、どうすればよいか?」という質問を受ける事がよくあります。これを読みながら、今まさに「迷っている最中」という方もいらっしゃるかもしれませんね。今回のお話は、ひとつの「意見」として参考にして頂ければ良いと思います。
ご存知のように、雄の場合は精巣の摘出(去勢手術)、雌の動物では卵巣、あるいは卵巣と子宮の両方を摘出(避妊手術)し、繁殖できないようにする手術のことを「不妊手術」と呼びます。不妊手術はそれ程難しい手術ではありませんが、当然ながら全身麻酔をかける必要があり、手術をする場合としない場合とでそれぞれ、メリットとデメリットがあります。
不妊手術のメリットとデメリットについて、比較してみましょう。

 

「不妊手術を受けた場合のメリット」

1) 望まれない不要な繁殖を避ける事が出来る。

不妊手術を受ける大きな目的のひとつです。特に外出する猫の場合には、手術を受けていないと繁殖してどんどん増えてしまう可能性があります。また犬の場合でも、複数の犬を一緒に飼育している場合には、「知らないうちに妊娠していた」などということがあります。「まだ子犬だから大丈夫だろう」などと安心していると、親子や兄弟で近親交配してしまうこともあります。近親交配では、遺伝疾患などの先天的な異常を持った子供が生まれてくるリスクが高くなります。

 

2) 生殖器関連の病気の予防が出来る

不妊手術をすることで、全ての生殖器疾患を100%予防できるわけではありませんが、手術によりある程度予防が可能な病気もあります。代表的なものを以下に挙げます。
・雄犬の場合;精巣腫瘍、前立腺肥大、会陰ヘルニア、肛門周囲の腫瘍などの発生を防ぐ事が出来る。
・雌犬の場合;子宮蓄膿症、卵巣腫瘍、乳腺腫瘍、などの発生を防ぐ事が出来る。
乳腺腫瘍の場合は、初回の発情(生理)が来る前に手術を受けた場合と、1回目、2回目の発情が来てから手術を受けた場合とでは、発生率に差があると言われています。より確実に乳腺腫瘍の発生率を低く抑えたい場合は、初回発情が来る前に手術を受ける事が大切です。
また糖尿病の動物では、発情に関連してインスリンの効きが悪くなり、症状が悪化することが知られています。

 

3) 行動学的なメリット

不妊手術を受ける事により、攻撃的な性格が穏やかになることが期待されます。特に雄の動物の場合は、不妊手術をしない場合は「テリトリーを守ろうとする意識」が強くなり、飼い主に歯向かったり他の犬に対して攻撃的になり喧嘩をすることが多くなる傾向があります。また「過剰なテリトリー意識」により外部の環境や部外者などに対して神経質になり、様々な問題行動を起こす可能性が高くなります。
不妊手術を受ける事で、もちろんこのような問題の全てが解決される訳ではありませんが、これらの問題の発生率を低く抑える事ができます。また万が一このような問題行動が発生した場合でも、不妊手術をしておくことで、しつけや問題行動の矯正がし易くなる場合があります。また雄猫の場合は、マーキングのためのスプレー行動をある程度抑える事ができます。
但し、このような「性格」や「行動」に対する手術の影響の度合いは、手術を受けた年齢(月齢)により大幅に異なります。一般的には、成犬(成猫)になってから手術を受けた場合の方が影響が少ないことが知られていますので、出来るだけ早期に不妊手術を受ける事が重要です。

 

4) 「発情徴候」に伴うトラブルから開放される

犬の場合は、発情に伴って出血が見られます。室内飼育犬では特に、出血により室内が汚れたり臭いがついたりすることがあります。また発情中は食欲が低下して体重が減少したり、神経質になったり、気分が不安定になることもあります。猫の場合はそわそわして外に出たがるようになり、脱走してしまう事もあります。
また犬の場合は、発情終了後に「黄体ホルモン」の異常による「偽妊娠」と言う状態になり、乳腺が張った状態が続いて乳腺炎を引き起こしたりする場合もありますし、発情終了後1ヶ月程経った頃には、子宮蓄膿症の発生リスクが上昇します。
不妊手術を受ける事で、これらの「発情徴候」にまつわる様々な「煩わしさ」から開放されることが期待されます。

 

5) 「遺伝子プールの汚染」を防ぐ事が出来る

「品種」とは「ある共通の遺伝的特徴を持つ集団」であると言えます。例えば、ゴールデンリトリバーをゴールデンリトリバーたらしめているのはその遺伝子であり、このような共通の特徴を示す遺伝子を持った集団を、品種としての「ゴールデンリトリバー」、そしてこの「共通の特徴」を持たせるような遺伝子の集合を「遺伝子プール」と呼びます。
例えば、本来小型犬であるはずのポメラニアンでも、時々体重が8kgくらいになる子がいます。あるいは足が短いはずのダックスフントでも、比較的長い足を持った子が生まれてくる事があります。もちろんこのような子達自身に罪はありませんし、どんな姿形であろうが個性的で魅力的なことには変わりありません。しかしながら、このような「極端に個性的な個体」を皆が自由に繁殖に利用してしまうと、例えば「ダックスフント」という遺伝子プールの中に「足が長い」という遺伝子が紛れ込んでしまう危険性が出てきます。これは、過去数十年(品種によっては数百年)に渡り熱心なブリーダー達が地道に築き上げてきた「品種」という遺伝子プールを「汚染する」行為である、と考える事が出来ます。
無秩序な交配を避ける事で、このような「遺伝子プール」の汚染を防ぐことが可能になります。

 

6) 遺伝疾患の拡大を防ぐことが出来る

明らかに遺伝性疾患を持っていることが判っている個体を交配に利用する事は、その疾患を引き起こす遺伝子の拡大を促す行為であり、当然ながら「遺伝子プール」の汚染と言うことができます。
遺伝性疾患には、例えばトイ犬種に頻繁に見られる「水頭症」や頚椎の形成不全、先天性の心臓奇形など、生まれて比較的直ぐに発症するものもあれば、アトピー性皮膚炎や股関節形成不全など、ある程度成長してから発症するものもあります。また交配に使用する個体自身には症状が見られなくても、その親や同腹の兄弟などが遺伝疾患を持っている場合には潜在的に遺伝疾患を持っている可能性が高く、その子孫に遺伝性疾患を広める危険性があります。
また品種によっては、ある特定の毛色の組み合わせの個体どうしを交配すると、非常に高い確率で先天性の異常が発生したり、ときには「致死的遺伝」となって「全ての子供が死産」となる場合もあることが知られています。スコティッシュフォールドという品種の猫では、耳の折れたものどうしを交配すると、非常に高い確率で関節に異常をもった個体が生まれてくるため、必ず「立ち耳」と「折れ耳」のスコティッシュを交配するのが常識となっています。
このようにそれぞれの品種に関する遺伝性疾患やその遺伝様式、形態や毛色との関連などに関する専門的な知識を欠いたまま交配をすると、「不幸な命」を生み出す危険性が高くなります。

 

「不妊手術を受けた場合のデメリット」

1) 子供を生む事が出来なくなる

当然ながら、「子供を生まないようにする」のがこの手術の目的ですから、これを「デメリット」と呼ぶべきではないかもしれません。

 

2) 手術を受けなくてはならない(全身麻酔をかけなければならない)

不妊手術を受けるためには、全身麻酔による外科手術が必要です。麻酔技術やモニター機器の発達により、麻酔に関連した事故は一昔前より格段に減少していますが、それでも「予期せぬ事態」が生じる可能性が、「絶対にない」とは言い切れません。

 

3) 術後の後遺症のリスク

不妊手術に限った話ではありませんが、自分で術創を齧って傷が開いてしまったり、体質により縫合部分の皮下に漿液が溜まったり、縫合糸に対するアレルギー反応を示したりすることがあり、この治療に時間がかかってしまうことがあります。
また一般的に不妊手術をした後は、雄でも雌でも太りやすい体質になる傾向があります。また比較的稀ですが、不妊手術をした後に軽度の「尿失禁」がみられる場合があります。

 

自分の愛犬・愛猫に子供を生ませてみたい、可愛い子犬・子猫を自分で育ててみたい、という気持ちはごく自然なものでしょう。しかし、「交配」「妊娠」「出産」には非常に多くのリスクを伴い、決して安易な気持ちでは出来るものではない、ということを理解して欲しいと思います。
例えば、「交配」により生殖器感染症やある種の腫瘍性疾患がうつる場合もあります。妊娠中に胎児が死亡してしまうこともありますし、出産や授乳、新生児の世話を適切にするためには専門的な知識が必要となります。また最近では犬の難産も非常に増えています。難産の場合には、対処が遅れると胎児だけではなく母体にも危険が及ぶ可能性もあります。たとえ安産で無事出産が出来たとしても、必ずしも五体満足の子供が生まれてくるとは限りません。先天的な異常を持った子犬・子猫が生まれてきたときに、その子の将来に対して自分が全責任を負う事ができるのかどうか、事前に充分考えておく必要があります。遺伝疾患の中には、成犬になってから発症するものも多くあるため、里親に貰われて数年経ってから「遺伝性の疾患」を持っていることが判明するような場合もあります。
これらの事柄を、専門的知識を持たない一般の飼い主の方が全てクリアすることは、非常に困難です。このような理由から、「プロフェッショナルのブリーダー」以外の方による安易な繁殖は、絶対にお勧めできるものではありません。

 

アメリカでは、飼育動物に不妊手術を受けさせる事が常識となっています。不妊手術を受けていない犬の場合は登録料が高額になる、という州もあるようです。また、不妊手術を受けさせない事で何らかのトラブル(犬どうしの喧嘩など)が起きた場合には、手術を受けさせなかった飼い主の責任が、法的にも問われるケースが多いとのことです。
日本では、「麻酔をかけるのが可哀想だから」「手術で痛い思いをさせたくないから」「以前飼っていた犬も手術をせず病気にもならなかったから」などという理由で、不妊手術を受けないケースがまだまだ沢山あります。
手術を受けさせるかどうかは、最終的には飼い主自身の判断になります。しかし、「動物を飼う」という事に関して、「社会に対する責任」「共に暮らす動物自身に対する責任」を果たす上で、不妊手術を受けさせることは最低限必要なことではないでしょうか?
「ペットブーム」と言われて久しい昨今ですが、これを単なる「ブーム」で終わらせること無く、社会全体が「伴侶動物」という存在を(そしてその延長上には盲導犬や介助犬などのアシスタントドッグをも)受け入れる成熟した社会になるためには、私たち一人ひとりの努力と責任ある行動が必要不可欠なのではないでしょうか?

2004.12.09(木)

独立行政法人 国立健康・栄養研究所 「健康食品Q&A集-その2

 

《コメント》

この度、国立健康・栄養研究所では「健康食品の虚偽誇大広告に騙されない方法」として、以下の9か条を作成しました。これはPDFでも配布されていますので、プリントアウトして配布資料として使用することができます。
最近は人間だけではなく、動物でも「健康食品・サプリメント」流行りですから、充分注意する必要があります。近頃巷に溢れる「ペット用サプリメント」の謳い文句は、殆ど以下のうちのどれかに該当するはずです。病気でもないのに、本来不要なものを与えて健康を害しては、元も子もありません。

 

A. 「健康食品」の広告は世の中にあふれていて、広告が本当のことを言っているのか一見して判断することは難しいものです。しかし、以下のようなうたい文句にはだまされないようにしたいものです。

 

(1) 「即効性」「万能」「最高のダイエット食品」
過度の期待を抱かせる表現はまず疑ってください。「健康食品」は万人に効くものなどはありません。

(2) 「ガンが治った」などの治療、治癒に関する言及
「健康食品」は医薬品ではありませんから、こうした効果を信じてはいけません。病気になったら、手遅れにならないよう、まずは、かかりつけの医師の診察を受けましょう。また仮に治った方が居たとしても、全ての人に同じように効くという保証はありません。

(3) 「天然」「食品だから安全」「全く副作用がない」
「天然」由来のものならば化学的合成でないから安心と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、天然のもの、自然のものにも毒素を含むものがあるなど「天然だからといって全て安全ではない」ことに注意すべきです。また、健康食品には特定の成分を過剰に濃縮して含有しているものがあり、一般に食経験がある成分であっても、こうしたものが必ずしも安全であるとは言えません。

(4) 「新しい科学的進歩」「奇跡的な治療法」「他にない」「秘密の成分」「伝統医療」
未承認医薬品を含有しているものがあり、思わぬ健康被害が発生する場合があります。

(5) 驚くべき体験談、医師などの専門家によるお墨付き
体験談において驚くべき効果が記載されていたとしても、その効果が万人に現れるとはいえません。また、体験談において症状等が改善されたのはこの健康食品のおかげと体験者が断定していたとしても、同時に行われた医師の治療や生活習慣の改善等によって改善された可能性があるなど、その断定は客観的な根拠ではないことに注意が必要です。また、体験談が販売業者等による作り話だったとしても、広告の受け手であるあなたはその真実性を検証することができません。さらに、医師などの専門家によるお墨付きがなされていたとしても、業者からの依頼を受けてお墨付きを与える営利的な専門家がいる可能性にも留意すべきです。

(6) 「厚生労働省許可」「厚生労働省承認済み」
特定保健用食品を除き、厚生労働省が事前の許可、確認を行っている健康食品はありません。なお、輸入品の場合には、これまで健康被害が多く報告されている医薬品成分が含まれていないことの証明書を求めていますが、製品全体の安全性を保証するものではありません。

(7)「○○に効くと言われています」
伝聞調により表示し、世間の噂・評判・伝承・口コミ・学説等があること等をもって、健康の保持増進の効果がある旨を強調し、又は暗示するものは、当該食品によって当該疾病を治癒することができると誤認をしやすいため注意が必要です。

(8) 「ダイエットに効く○○茶(特許番号××番)」
特許を受けているからといって、必ずしもその効果が認められているわけではないことに注意が必要です。

(9) 「○○を食べると、3日目位に湿疹が見られる場合がありますが、これは体内の古い毒素などが分解され、一時的に現れるものです。これは体質改善の効果の現れです。そのままお召し上がりください。」
不快症状を記載することにより、強い効果や即効性等があると誤認をしやすいため注意が必要です。このような表現は、適切な診療機会を失う可能性もあります。

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